9月の3連休2日目の午後、お昼ご飯を食べながらNHKののど自慢を見ていて、
「明日も休みだし、朝から市の奉仕作業で疲れたけど、ぶらっとどこかへバイクで走ろうかなあ。」
と思った。いつものツーリングの相棒の妻は美容院を予約していたので、一人で土岐・瑞浪の愛知県境あたりを走ることにした。
午前中に友人のN君から仕事上気になるメールがあったので、バイクに乗る前に電話を入れると、仕事の話より、お互い暇だったので、いっしょに走ろうということになった。ただ、N君の愛車は原付きスクーターのDio。そこで、彼に合わせて僕もスーパー・カブ号で走ることにした。
2時半に豊田市内の某コンビニで待ち合わせ、Dioとカブのプチ・ツーリングの始まりだ。
豊田からR419を北に向かった。信号待ちで、N君が、
「藤岡(豊田市;旧藤岡町)の石畳小学校跡地に足湯ができたから行ってみない。」
と言うので、行ってみることにした。
校舎は10年くらい前に移転していて、その跡地が公園としてきれいに整備されていた。運動場だった所から温泉が出たということで、公園にはなんと足湯と温泉スタンドがあった。
元運動場に2台の原チャリを止め、足湯に向かった。地元の人と思われる6、7人の人たちが足をお湯に浸けていた。僕たちが入っていくと、みなさん「こんにちは」と声をかけてくれて、 なんとなくいい雰囲気だなあと思った。
お湯はそれほど熱くなく、ほどよい湯加減でいい気持ちだ。N君は、
「全身、入りたい。」
と言って、みんなを笑わせていた。いつもながらおちゃめなN君だ。
次に行ったのが、岐阜県土岐市柿野の手作り羊羹屋さんだ。これも、N君の提案だ。狭い山道を走っていると、カブの機動力の良さと意外なほどのコーナリング性能の高さで、普段の大型バイクとは違った楽しさを感じた。上り坂でのパワーの無さにいらいらすることもあったが、それも原チャリの楽しさかもしれない。エンジンが精一杯頑張ってるな あと感じながらほぼ限界性能で走っているのだから。
土岐市南部の田舎の古びた家が羊羹工場兼店舗だった。中に入ると、店のご主人が出てきて、
「さっき売れちゃった。もうすぐ次のができるけど、冷ますのに時間がかかるけど。」
とのこと。僕はともかく、N君はそうとうがっかりしていた様子だった。仕方がないので、できたての羊羹を諦めてR361を東に向かった。
R361は、国道とは言え、のどかな田舎道で、僕の好きな道の一つだ。でも、カブで走るのはこれが初めて。いつもなら大型バイクでコーナリングを楽しみ、立ち上がり加速を楽しみ、流れる景色を楽しむ道も、原チャリ2台で走ると昔ながらの原風景をしっかりと味わいながら走ることができる。
瑞浪市に入り、R419との交差点に世界一の狛犬がある所がある。いつもは通り過ぎる所だが、今回はバイクを止めて、初めてまじまじと美濃焼のでっかい狛犬を間近で見た。驚いたのは、高さ3mはありそうな狛犬の後ろに窯があったことだ。どこかで焼いて運んだので はなく、美濃焼の巨大狛犬を作るにあたり、まず窯を作ったということだったのだ。それを、地元の人たちが交代で24時間窯の火を絶やさないように作業を進め、年月をかけて作り上げたとのことだった。
狛犬を見た後は、R419で豊田方面に向かった。小原峠が愛知と岐阜の県境となっている。小原村(豊田市;旧小原村)はN君の出身地だ。峠には立派なトンネルができ、トンネルを抜けると愛知県に入る。ところが、N君は旧道を走ろうと言う。原チャリだから、どんな狭い道にも入っていけるが、道があるのかないのか藪の中。N君は、旧道の途中から山を下ったところに、子どもの頃の家があったとのことだ。そこで、藪の中の旧道に入ってみると、すぐに道路は遮断され、通行止めになっていた。N君はちょっと残念そうにしていたが、道がなくなっているのだからどうしようもない。狭いスペースでバイクの向きを変え、国道に戻ってトンネルをくぐると、すぐにN君がパーキングにバイクを止めた。
「あっという間だなあ。」
N君はため息まじりにそう言った。きっと子どもの頃はそうとう大変な峠道だったに違いない。
峠を下ると、N君はまたまた脇道に入った。ウィンカーを出してついていくと、そこには狭い広場があった。隅に二宮金次郎の像があったので、そこが学校跡地だということはすぐに分かった。
「僕の学校、ここにあったけど、こんなに狭かったかなあ。」
N君はなつかしそうに言うと、二宮金治郎の所で、
「ちょっとこっちにきて。」
と、僕を呼んだ。
「この下の台のところに、僕の名前が彫ってあるから。」
見ると、ちゃんとN君の名前が台の部分に彫ってあった。もともと雨量計 だったところに卒業制作でコンクリートの台を作ったのだと言う。学校は30年くらい前に廃校になったが、卒業制作が残っているとは、N君にとってはうごくうれしいことだろう。
運動場だった所を歩いていると、なんとイノシシの足跡があり、二人で大 笑いしてバイクに戻った。
学校跡地を出て、そのままR419で待ち合わせたコンビニに戻った。市街地に近づくにつれて国道の交通量は多くなってきた。道の端をトコトコ走るのに慣れていないせいか、大型車や速いクルマに追い抜かれるのに恐怖感を感じた。道幅が狭い所では、僕たちの後ろにクルマが連なり、申し訳なさと「早く抜いて行ってよ」という2つの気持ちが入り交じった気持ちになった。それでも、なんだか楽しくてしかたがない。
僕とN君とは誕生日が10日ほどしか違わない。僕の方が少し誕生日が早いが、僕が3月の終わり頃で、彼は4月の始めなので学年は僕が1つ上になる。ゴールのコンビニで、2人とも定年になったら原チャリで北海道を走ろうというような話をして別れた。
大型バイクでさっそうと走るツーリングもおもしろいが、小さなバイクで一生懸命走るツーリングもなかなか楽しいものだった。わずか70㎞あまりの旅だったが、大型バイクの200㎞分くらい走ったような気がした。