全国的に雪が降る降ると天気予報では言ってるのに、僕の住む豊田はいつも雨。本当に雪が降ると通勤で大変な思いをすることになりますが、降らないと逆に積雪がうらやましくなります。そこで、3連休を使って長野県南部の昼神温泉に行って、雪を見ながら温泉に浸か ろうということにしました。
<2月9日>
目的地の昼神温泉は豊田から100㎞足らずの比較的近い所にある温泉です。お昼少し前に家を出て、まずは足助を目指しました。小京都風の通りにお気に入りの店「参三楼」があります。ただ、ちょうどこの日から足助は雛祭り行事が始まり、狭い路地は観光客であふれていました。VOXYで通るのが歩行者に申し訳ないような感じでしたが、仕方がありません。歩行者の邪魔にならないようにゆっくりとク ルマを走らせ、「参三楼」に行きました。
僕は三河豚を使ったカツカレーで、妻は手作りソーセージのスパでお腹を満たし、再びのろのろと古い町並みの路地を抜けて、R153で一気に昼神温泉がある阿智村を目指しました。
稲武まで行けば雪があるだろうと期待しましたが、いつまで経っても雪景色にはなりません。長野県に入り、平谷村のスキー場付近と、R153最高地の治部坂峠のスキー場付近にだけは雪が見られましたが、やっぱり道路には雪はありません。雪景色も峠だけでした。せっかくの4WDに買ったばかりのスタッドレス・タイヤも宝の持ち腐れです。わずかに道路の隅に除雪の跡の雪があるだけで、雪を見ながら温泉なんて絶対に無理だなあと思えてきました。
3時前には阿智村に着きました。観光案内所で湯巡り手形の「物味湯産手形」を1050円で買いました。この手形は、1年間有効で、伊那・木曽・諏訪の長野県南部一帯の10の日帰り温泉に無料で入ることができ、協賛店では割引価格やサービスが受けられるというとてもお得な手形なのです。
まだ時間はたっぷりあるので、ガイドブックを見て大鹿村に行ってみようと思いました。ガイドブックの写真を見ると、大鹿村は昭和を絵に描いたようなノスタルジックな景色が広がっ ているように見えたのです。
飯田山本ICから中央道に入り、松川ICで出ました。そのままひたすら東に走ると、まずはりんご畑の中を、続いて松川の市街地を、そしてR153を横切ると、どんどん秘境に入っていくような道になってきました。千と千尋の世界を彷彿させる道は、右手に見る川に沿ってくねくねと曲がりくねっていて、左側は断崖絶壁だったり、深い森だったりして、徐々に山里深く入っていきました。
「あっ、サル!サル!サル!」
左の道端に2匹のサルを発見。思わず指さしながら叫ぶと、妻が、
「わあっ、こっちにも。」
と、驚いたような声で叫びました。右側にも数匹のサルがいて、合わせて7,8匹の集団でした。さらにクルマを進めると、左手の崖の上から落差の大きい滝がありました。一部が凍っていて、かなり迫力のある滝でしたが、特に名も無い滝で、ここら辺りではごくごく普通の景色なのかもしれません。するとまた、7,8匹のサルの集団が。サルは出るわ、滝はあるわ、いったいなんて所なんだろうと思いました。右手がひっそりとしたダム湖になりました。なんだか八ツ墓村のワンシーン、両足を広げて湖面に浮いている死体がありそうな湖でした。秘境と言ってもいいような雰囲気が漂っていました。しかし、大きな看板には「日本一美しい村・大 鹿村」と書かれていました。寒々とした冬以外の季節に、もう一度ここを走ってみたくなりました。きっと八ツ墓村とは別の印象になると思います。
阿智村から30分ほどで大鹿村に着きました。ガイドブックによると、映画「大鹿村騒動記」のロケが行われた昭和初期の建造物がいくつもあるはずです。ところが、それがどこにあるのかよく分かりません。所々寸断されている酷道と称されるR152に入りました。ここはよく整備されたきれいな道でした。大鹿村の市街地の南の端辺りに古いコンクリート製の3連アーチになった昔なつかしい橋が見えました。それがガイドブックに載っていた小渋橋でした。さすがに、ほとんど人もクルマも通らないのか、ここだけは雪が積もっていました。この冬初めてVOXYのミッションをを四駆に切り替えました。切り替えると言っても、ボタンひとつですが。
クルマを橋のたもとの空き地に置くと、カメラを持って橋まで行きました。なつかしさがこみ上げてきました。子どもの頃に立派に見えた橋は全て、この小渋橋のようなコンクリート製でした。山と雪の風景ととけあい、なんともノスタルジックな気分になりました。
その後、他の橋や昔のバス停などを探しましたが、よく分かりませんでした。こういうレトロな風景にはもう一台の愛車ローバーミニが似合いそうです。花が咲き始める春にミニに 乗って「日本一美しい村」大鹿村を探検したいと思いました。
夕方になってきたので、引き返すことにしました。
夕日を浴びながら千と千尋の道を戻りました。途中の名も無い滝では路肩にクルマを駐め、雪と氷の間を流れ落ちる一筋の水をカメラに収めました。サルの出没も期待しましたが、どうやら家に帰ってしまったようで、サルの姿を見ることはありませんでした。
松川ICから中央道を南に走ると、東の山々に夕日が当たり、白い雪が赤く染まっていました。そして、飯田山本ICを出て、予約しておいた阿智村の昼神温泉「おとぎ亭・光風」に向かいました。
旅館に着いた時は、すっかり暗くなっていました。駐車場にクルマを停めると、旅館の方 が出迎えてくれました。趣のある玄関の前には、「かさこ地蔵」のお話を連想させるお地蔵様が並んでいました。古い建物ですが、ロビーには羽衣の布が垂れ、おとぎ話の世界をイメージした雰囲気にあふれていました。
チェックインを終え、まずは温泉です。
昼神のお湯は、つるっつるのお湯なので、楽しみにしていました。到着が 遅くなったため、食事まで20分しかありませんでした。妻と2人で大急ぎで大浴場にすっ飛んで行きました。食事時のお風呂には誰もいませんでした。体にお湯をかけ、湯船に入るとちょっと熱かったので、露天風呂に入りました。外の気温が低いからか、僕にとってはちょうどいい湯加減で、気持ちよくつるっつるのお湯に浸かりました。しかし、それほど長くは入っていられません。10分ほどお湯に浸かり、すぐに出て食事に向かいました。
食事は別の部屋の個室でした。鍋やてんぷら、お造りに茶碗蒸しなどの普通の献立でし たが、おいしくいただくことができました。ただ、ご飯の味は少し気になりました。安いお米か、それとも地元のお米か分かりませんが、「これはうまい」と思えるご飯ではありませんでした。これは、僕の味覚の問題かもしれません。それでも、普通においしいご飯で、量もちょうどよく、部屋の雰囲気もよかったので、十分満足できる晩ご飯でした。
部屋に戻ると、用意されていたこたつに足を入れ、そのままごろ~んとしたところで、記 憶が消えていました。気づいた時は10時を過ぎていたので、急いで温泉に入りに行きました。
脱衣場で初老のおじさんに、
「スケート、見てたか。」
と、声をかけられましたが、こたつがあまりにも気持ち良く、ぐっすり眠ってしまったため、テレビを観ていません。どうやら、四大陸フィギュアで真央ちゃんが大活躍したようでした。
時間が遅かったせいか、今回も大きなお風呂に僕一人だけでした。ゆったりとした気分 で二度目の昼神のお湯を楽しみました。
<2月10日>
久しぶりにいっぱい寝たので、朝の目覚めもよく、めずらしく朝風呂に入りました。昼神のお湯は何度でも入りたくなるくらい気持ちがいいので す。
朝食ももりもり食べ、気持ちのいい一日の始まりになりました。
食後も、部屋でこたつに入ってのんびりと過ごし、9時半くらいにロビーに向かいました。
チェックアウトを終え、ロビーの隅の畳敷きの喫茶コーナーでモーニング ・コーヒーです。おとぎ話によく出てくるかわいい鬼がちょこんと置かれていました。
クルマを駐車場にしばらく置かせていただき、ロビーにあった昼神温泉散策マップを見ながら、森の中の道を散歩することにしました。「風の散歩道」 と記された1.8㎞コースを選びましたが、まずは一気に急な上り坂でした。はじめの200m程度で息切れしそうなくらいの上り坂でしたが、信州の低い気温にもかかわらず体は熱くなってきました。老人ホーム の大きな建物が一棟あっただけで、あとはただただ森の中。
「なんか、おもしろい動物が出てこないかなあ。」
とつぶやいたその時、妻が、
「あっリス!」
と声を上げました。枝から枝へと小リスがぴょんぴょん跳び回っていました。まるで、「ご要 望にお応えして」というくらいグッド・タイミングでした。老人ホーム付近の街灯もリスのデザインのかわいいものでした。どうやら昼神の森にはリスたちがたくさん住んでいそうです。
途中の道で行き止まりになっていたりして、1.8㎞どころかずいぶん歩きました。体力に自信のない僕ですが、森のおいしい空気に助けられ、気持ち良く散策することができました。「風の散歩道」の最後は、阿智神社でした。ひっそりとたたずむ祠にはぴーんと張り詰めた空気が感じられました。一年間幸せに過ごせるようお参りを し、参道を下りました。
駐車場に戻り、タオル・セットと「物味湯産手形」を手にして、昼神の立ち寄り湯に入りに行きました。温泉街を二人でぶらぶら歩き、手形があれば無料で入ることのできる「鶴巻荘」に行きました。
フロントで「物味湯産手形」にスタンプを押してもらい、脱衣場に行くと、お年寄りで混雑していました。どうやら地元で人気の温泉のようです。お風呂にも10人くらいの人がいて、なかなか活気のある温泉でした。20分ほどお湯に浸かりました。
すっかり温まったところでお風呂から出て恒例のコーヒー牛乳を飲んでいると、妻が女湯から出てきました。そして、開口一番、
「年寄りがやかましい。」
すると、おばあさん5人組が大声でおしゃべりしながら出てきまし た。
「あのばあさんたち、うるさすぎる。」
その点、おじいさんは場をよくわきまえています。大騒ぎするお年寄りは一人もいませんでした。気持ちのいいお湯も、妻にとっては腹立たしいお湯だったのかもしれません。
ガイドブックによると、昼神温泉の最寄りのインター園原ICの近くに「信濃比叡」という古いお寺があります。比叡山延暦寺の信州版のような気がしたので、行ってみることにしました。地図では、その手前に「物味湯産手形」の協賛店があったので、そこでお昼ご飯を食べてからお寺に行ってみることにしました。
スキー場「ヘブンス園原」の手前に食事の店「東山道」がありました。信州と言えば蕎麦です。大好きな五平餅もあったので、僕も妻も、てんぷらそばと五平餅を注文しました。そば は見かけ以上に量が多く、そこに小振りの五平餅が加わって、あっという間にお腹がいっぱいになりました。
「物味湯産手形」のサービスでコーヒーが付きます。1050円の「手形」で390円のコーヒーのサービス。引き算をすると660円で温泉10回ということになり、これで温泉入浴1回あたり66円です。もともと1年間で長野県南部全域の温泉に2回入れば元が取れる手形なので、この「物味湯産手形」は本当にお得なのです。
お腹もいっぱいになり、目的地の信濃比叡にクルマを進めました。ヘブンス園原スキー場の手前から狭い坂道を登って行くと、すぐにそのお寺はありました。参拝者は僕たちだけで、ひっそりとしたお寺でしたが、麓の土産物や食事の店には観光バスが3台に乗用車も10 数台と大賑わいでした。そこも「物味湯産手形」の協賛店です。簡単にお参りを済ませ、さらに山奥の「暮白の滝」を見てみようと山道を登り始めました。すると、突然の雪道で、除雪がしてありません。4WDにスタッドレスでぐいぐい登って行きましたが、滝の看板さえ見当たりません。このまま登ってUターンできなくなったら大変と、少し広くなった所で何度も雪の上で切り返しをして、戻ることにしました。君子危うきに近づかずというほど大袈裟なものではありませんが、不安を感じたら引き返すのが雪道の鉄則です。滝はまた暖かくなったら見に来ればいいのです。
引き返す時に、JEEPラングラーとすれ違いました。同じ4WDでも、JEEPの方がかなりワイルドです。JEEPは不整地走破用のクルマのようなものです。JEEPだったら、引き返す ことなく根性で雪道を登り続けたに違いありません。
再び昼神温泉のある阿智村に戻り、往路と同じR153で豊田に向かいました。時間はまだ2時でした。この時間に阿智村を出れば、スキー客が帰る時間より早く日常的に混み合う足助の市街地を抜けることができます。
R153は、バイクで走ってもクルマで走っても気持ちのいいワインディング・ロードです。寒原峠を越え、治部坂峠を過ぎ、大賑わいの治部坂スキー場を横目で見ながら淡々と走り続けました。昨日はサルを見て、レトロな風景を見て、つるっつるの温泉に入って、今日も朝から温泉に入って、散歩道でリスを見て、気持ちのいい道を走って・・・。そんなことを思っていたら、だんだんと目がとろんとしてきてしまいました。あまりにも眠くなってきたので、道の駅「信州平谷」で休憩することにしました。
そこで活躍するのが、VOXYのフラット・シートです。2列目と3列目のシートを倒すと、シートはほぼ平らな状態になります。しかも操作はいたって簡単。カーテンを閉めればあっという間に車中泊仕様になります。積んでおいた毛布を被って30分ほど仮眠すればあとは一気に 豊田に帰るだけです。
3時になぜかラジオ体操の音楽が流れてきました。そろそろ起きないと足助が混むぞと思っているうちにまたzzz。気づけば4時近くになっていました。VOXYを車中泊仕様にすると、いつもこんな感じになってしまうのです。
道の駅を出る時には、交通量はかなり増えていました。足助の渋滞は必至なので、稲武から山越えの道で藤岡に抜け、東海環状道豊田藤岡ICから豊田松平ICまで高速道路を走り、5時半頃に自宅に着きました。
楽しみにしていた雪見の温泉は叶いませんでしたが、心と体を癒すには十分すぎるくらいリフレッシュできるドライブになりました。また春になったらぶらっと出かけてみようかなあと思います。