<5月4日>
去年の夏以来のソロ・ツーリングだ。いつもは妻を相棒に、2台でツーリングを楽しんでいるが、今回は特別な事情があって1人で走ることになってしまった。
日帰りで行ける範囲の中で気になっていたのが雑誌「アウトライダー」2011年12月号 に載っていた岐阜県の「金山巨石群」だ。この4月から職場が岐阜になり、よけいに気になって仕方がなかった。
9時半頃、トップケースに折り畳み椅子を放り込み、愛車ZRX1200ダエグにまたがり、豊田の自宅を出た。家から東海環状道豊田松平ICはすぐ近くだ。わずか5分ほどで高速道路に入り、ひたすら美濃加茂方面を目指す。GW期間はいつも中央道と分岐する土岐JCTの手前から渋滞が始まるが、今年のGWは前半と後半に分かれたせいかスムーズにJCTを超えることができた。周辺の山々は、新緑の明るい緑の所々に黄色に近い薄緑色が混じり、美しい色彩模様を描いている。しかも、東海環状道は延々とその風景が続いている。
新緑の山々と、時折見られるのどかな田園風景を交互に眺めながら、高速道路をちょうど気持ちのいい速度で流す。ただ走っているだけなのだが、やっぱりツーリングはいいものだと実感する。
金山方面に行くには、美濃加茂ICで出て、R41を飛騨川に沿って走るのがベストだが、今回は少しコースを変えてみた。飛水峡などの渓谷美を楽しみながら走るR41も十分魅力的だが、奥美濃から飛騨路へと続くのどかな県道もおもしろそうだ。1時間ほど走り、美濃加茂ICの次の富加関で東海環状道を降り、県道58号を平成に向かって走った。旧武儀町平 成(へなり)は、元号が昭和から平成になった時にずいぶん話題になった地区だ。新たにできた道の駅「平成」は、どうやらそのまま「へいせい」と読むらしい。
道の駅「平成」は驚くほど混雑していた。県道を走っている時は交通量も少なく、気持ちよくバイクを走らせることができたので、その混雑ぶりには困惑するくらいだった。隅の通路の端になんとかバイクを止めることができたが、クルマだったら案外広い駐車場内をうろうろしながらスペースを探さなければならないだろう。
まずは道の駅スタンプをスタンプ・ノートにぺったん。これで岐阜県の8割はゲットしている。それから、お昼のお弁当になるような物はないか店内を見て回った。ところが、それらしい物が見当たらない。なんでもいいから何か食べなくちゃと思いながら外の出店を覗いてみたら、手作りパンの店があった。そこで選んだのが、明宝ソーセージ・ドックと昔ながらの揚げパンだ。揚げパンが大きめなので、これだけあればおなかは満たされるだろう。お茶のペットボトルと缶コーヒーは家から持ってきた。ネットで安く買ったので、よそで買うのがもったいないのだ。
まだお昼には少し早い。このまま県道を走っていれば、きっと空気と景色のいい場所があるだろうと思い、混雑した道の駅を出た。
しばらくの間武儀川に沿った集落を走るが、川と離れた辺りからはまるで高原道路のようなワインディング・ロード。お昼ご飯の場所を探すどころか、あまりの気持ちよさに走りそのものを楽しんでしまった。前を行くのは札幌ナンバーのアメリカン。そのペースが初夏の高原の空気を直に感じる快適なペースなのだ。
道の駅「平成」から、およそ25㎞ほどでR41に合流した。合流する交差点で、隣に停まっているアメリカン氏に話しかけてみた。
「北海道から来られたのですか。」
「いえ、母が札幌にいるので、むこうで登録したんですよ。岐阜ナンバーよりかっこいいでしょ。」
分かるなあ、その気持ち。僕も兵庫に住んでいて豊田に戻った時、ずっと神戸ナンバーのままにしていたのはそれが理由だった。「三河」より「神戸」の方がかっこいいでしょ。そういうことなのだ。アメリカンの彼が速くもなく遅くもないちょうどいいペースを保って走ったのも、実は地元のライダーだったからだ。
金山市街地のR41を数㎞ほど走ってR256へと左折した。
奥美濃から飛騨にかけての国道も県道も、どこもみな山の中ののどかな道だ。まさにバ イク・ツーリングにぴったりの道ばかり。おなかがすいてきたが、R256に入れば目的地まで は20㎞ほどだ。金山古墳群までこのまま一気に走ることにした。
馬瀬方面への標識を目印に、県道86号をさらに山の中に向かう。県道86号は山の中のワインディングで、適度なコーナーが続く「ハチロク」の名にふさわしい道だ。古墳群は馬瀬川第二ダムと岩屋ダムの間の山の中にある。桜並木のダム湖畔を超えて坂道を上る。そして、左急カーブを曲がった 所に左下を指した「金山古墳群」の看板があった。
巨大ないくつかの岩が規則正しく並んでいるのが見えた。案内標識に従って巨石のある方へ向かうと、小高い丘の下にクルマ6、7台の駐車場があった。そのため、巨石群のある所へは歩いて登ることになる。まずは腹ごしらえだ。
駐車場にバイクを止めると、眼下の谷に馬瀬川が見える。いい感じだ。バイクの横で折り畳み椅子を出し、腰を下ろし、道の駅で買った2つのめずらしいパンで遅めの昼食にした。おかずは川のせせらぎと、新緑の山々と、おいしい空気。クルマで来た家族たちがめずらしそうな顔で見ていくので、ちょっと恥ずかしかったが、ひょっとしたらうらやましく思って見てるよう な気もした。
明宝ソーセージ・ドックはさすが明宝ブランドという感じがして、一般に売られているホットドックよりもずっとおいしいし、昔ながらの揚げパンも、やや油っこいが味はなかなかのものだった。駐車場の隅でパンをかじっているだけなのだが、それでも十分満足できる昼食になった。ただ、やっぱり少し恥ずかしいので、さっさと食べて、椅子をトップケースにしまっ た。
食事が終わったら、いよいよ巨石群の散策だ。麓から少し登った所にある鳥居に手を合わせ、狭い坂道を登る。バイク用のシューズだが、歩きにくい道ではない。小高い丘の中腹辺りに1辺が3~5mほどの大きな岩が4つ重なるように置かれている。大きさと重さを考えれば、置かれるはずはないが、規則正しく集まっているから謎なのだ。4つの岩の隙間に入ることもできそうだが、安全上の問題からか大きな柵で中には入れないようにしてあった。斜面にあるの で、もう少し登ると、上から隙間を覗くこともできたが、影になってしまって、内側はよく見えなかった。説明の看板によると、冬至・夏至の時期の隙間からの光の射し方に何か規則性があるとのことだったが、前後120日というような幅のある現象のようで、実際のところはよく分からなかった。よく分からないが、確かに謎の巨石群だ。なんと言っても、ここにだけ巨石があることだけでも、十分「謎」なのだ。しかも、規則正しく。
坂を下り、もう一度上の方にある巨石群を眺め、バイクに戻った。
帰りに道の駅「飛騨金山ぬく森の里」の温泉に入ることだけはあらかじめ決めておいたが、それ以外は何も考えてなかった。中山七里の景色をながめながら飛騨川に沿ってR41を南に向けて走り、美濃加茂ICから東海環状道で帰るというのがもっともオーソドックスな帰り方だろう。そもそも、同じ道を行って帰るというのはあまり好きではない。往路が平成経由なら、帰りは飛騨川経由に決定ということで、県道86号を南に戻った。往路で見たダム湖の風 景があまりにきれいだったので、バイクを停めて写真を撮り、ハチロクで走ったら気持ちのよさそうなワインディング・ロードを道の駅「飛騨金山ぬく森の里」に向けて軽快に走った。とにかく、県道86号もR256も気持ちのいい道なのだ。
20分ほどで道の駅に着いた。さっそく温泉だ。金山のお湯も、有名な下呂の温泉のお湯とよく似ていて、肌がつるつるする感じがしていいお湯だ。駐車場にバイクを止め、トップケースからタオルの入ったバッグを取り出すと、急いでフロントに走った。値段も安く、たったの450円で、その割には施設は充実していてきれいだ。
今回で2回目だが、やっぱり気持ちがいい。腕を擦るとつるつるになっている。少し熱めのお湯だが、ぬるいお湯の好きな僕でもちょっとの我慢で浸かることができる。露天風呂は内湯よりもお湯の温度が低いのか、さらに気持ちよく入っていられる。思ったよりすいていたので、両足を思いっきり伸ばしてお湯に浸かると、もう気持ちよすぎ。あまりの気持ち良さに眠ってしまいそうになる。
残念なのが、お風呂上がりの休憩場所の自販機に牛乳がないことだ。温泉に入ったら、まずは牛乳でしょう。そう思い込んでいる僕は、しぶしぶ飲むコーラが量が多すぎるように思 えた。残すこともできず、ゲップをしながらがんばって飲んだ。ところが、道の駅の店の中には牛乳があるのだ。うらめしさを感じながら、バイクに戻った。
あとは、中山七里の渓谷美を楽しみながら飛騨川に沿って帰るだけと思ったが、R41に入ったら意外と交通量が多かった。これが美濃加茂の市街地に入ったらと思うと、予定を変更したくなった。そして、往路と同じ県道58へと進路をとった。これで、不本意ながら、まったく往路と同じ道を行って帰るという、僕としては許せないコースになったことになる。それでも、岐阜県の山の中の県道は、そのほとんどがツーリングに最適な道で、しかも交通量は東海地方としては異常なほど少ない。岐阜県のライダーたちは、県道86号といい、この58号といい、こんなに恵まれた環境の中でチョイ乗りが楽しめるのだ。うらやましいものだ。
GWのまっただ中に、新緑の山々に囲まれたのどかな道をちょうどいい速度を保ってひたすら走り続けられるのも、往路と同じコースを選んだからで、不本意とは言っても、大正解だったと思う。
帰りはどこにも寄らず、富加関ICから東海環状道をひた走り、一気に家路についた。そして、家で趣味のクラシック・ミニに乗り換え、妻と父の待つ病院へと向かった。入院している 妻は、「私の入院のせいでツーリングに行くことをやめたら、私がつらいから」と言って、気持ちよく送り出してくれた。どこにも寄らずに一気に帰ったのは、実はこのためだった。
退院した今、次は絶対に2人でツーリングに行こうと、また計画を立て始めている。