伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

お父さんはやってない

2007-01-21 14:45:31 | ノンフィクション
 痴漢冤罪事件の元被告人と妻が、逮捕から高裁での逆転無罪判決までの経緯をつづったノンフィクション。
 もちろん、著者の目的は無実であることと無実の者が突然逮捕されて1審で実刑判決を受ける恐怖やそれを覆すことの大変さを記録することにあるわけです。しかし、私の感覚では、前半の裁判前の話が、刑事手続を一般の人の目から理解し感じるのにとてもいい教材だと思いました。話者が逮捕された本人とその妻で交替に書かれているのも、同じことを塀の中と外から、違う観点から描かれているのが理解を深めます。前半から中盤の逮捕された本人と妻の考え・感情の違いも、被告人とその家族のズレ・行き違いとしてよくあることですが、刑事手続中の関係者の置かれた立場をよく表しています。
 そういう観点からは、この被告人の場合、友人に恵まれ、無罪立証のために大弁護団が組まれたり、運動が展開され、証拠のためのビデオ撮影やそのためのセット作りとかかなり大がかりに展開されていて、そこが、痴漢冤罪で無罪判決を勝ち取るためにはここまでやらなくちゃいけないのかと思わせて、読者が暗澹たる気持ちになるのが難点。
 弁護士の立場からは、1審で負けた弁護人も含め、弁護団の活動には、そこまでやるかと敬服します。それでも著者が弁護団に不満な様子を見せているあたりには、弁護士としては、悲しいというか、弁護士って因果な商売だなあと思います。


矢田部孝司、矢田部あつ子 太田出版 2006年12月17日発行
コメント
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