伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

シンセミアⅠ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ

2007-01-04 07:55:00 | 小説
 地方都市の有力者たちとその子らの青年たちが繰り広げる悪巧みと抗争の顛末を描いた小説。文庫版で本文1100頁弱の長編です。
 最初の方は、登場人物の多さ(巻頭の主な登場人物の一覧表だけで3頁にも及んでいます)に、話について行くだけで疲れましたが、主だった人物がわかると切り替えが適当に効いて読みやすくなり、一気に読める感じです。というか、切れ切れに読んだら、場面が変わる度に、この人誰だっけということになって早晩投げ出すことになるでしょうね。
 出てくる主な人物が、悪者か変な人か薬物中毒か淫乱で、読者がその立場で読み通せる人物がいません。普通、これだけ多数の登場人物がいれば、まじめというか実直な人物がいるものですが。相対的にはましな田宮博徳が、主人公かと思えますが、それも途中で死んじゃいますし。
 物語冒頭の殺人の犯人は、一貫して「背の高い男」とあるだけで名前が出てこないので、その謎解きが最後に来るのかと思っていたらあっさり途中で(勘がよければⅡ68~70頁で、そうでなくてもⅡ212頁とⅢ180頁で、それでも気がつかない場合でもⅢ183頁で)明らかにされてしまいます。
 結末は、人物としてたち悪く描かれている者はおおかた死んでしまいますが、事件の真相が知られることにはならず、別の事情でたまたま死んでしまうということですし、陰の支配者は結局生き残り、今ひとつスッキリしません。最後にまとめて悪者を破滅させるなら陰の支配者も失脚させた方が読み物としてスッキリしますし、世間はそんなに甘くないと言いたいなら悪者が次々と死ぬのは都合がよすぎる感じ。そのあたり中途半端な印象が残ります。
 舞台は作者の出身地で実在する山形県東根市神町。付いている地図も実在する町の地図(「パンの田宮」の所在地に現実に何があるのかまでは私にはわかりませんが)。実在の町を舞台にここまでおどろおどろしい人間関係を書いて大丈夫なんでしょうか。作中には作家の阿部和重も登場しますし。事実とフィクションを織り交ぜて作者としては遊んでいるのでしょうし読者に現実感とおちゃらけ感の錯綜を感じて欲しいんでしょうけど。


阿部和重 朝日文庫
Ⅰ・Ⅱ2006年10月30日発行、Ⅲ・Ⅳ2006年11月30日発行
(単行本は2003年10月)
コメント
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