表題作(すばる文学賞受賞作だそうな)は、田舎から東京の美大に行ったものの夢やぶれて郷里に帰り実家の薬局で仕事もせずぶらぶらしている不器用な女が、元同窓生のエリート美青年と一夜を共にするが相手は新興宗教の勧誘目的で手当たり次第に女と寝ていることを知り、自己嫌悪に陥りつつもなお相手を求めている自分と戦い煩悶する様子を描いた小説。
20代半ばの女性を、これだけ無様に屈辱的に描けるのは珍しいとはいえますが、なんか露悪的・自虐的で読後感がよくないですね。今風でない、どこかねっとりと絡むくせのある文体は、もう少し骨のあるテーマだったら、それなりに生きるかもしれませんが。
幻と戦った後、エンディングが、ぶらぶらしていないで働けと言っていた兄から薬局の手伝いをしてくれと言われたのが優しく感じたというのでは、夢を追って敗れた者に、夢を追う前の敷かれていたレールに乗る普通の人生がやっぱりよかったという教訓を垂れているようで、いやらしい感じがしました。
カップリングされている「鸚鵡」は、主人公の女子高校生が、弟の同級生男の乱暴で独善的な性交に辟易しつつ姉の同級生女のキスに陶酔しというように、受け身の性行為に翻弄されながらニヒルな考えに浸る、ちょっと70年代風の作品に見えます。しかし、マルクスやウェーバー、デリダなんかを並べて「足を引っ張ることはあったとしても、一度だって世の中の役に立ったことなどないのにね」(114頁)というあたり、夢やぶれた元左翼転向者の匂い。「確かな行為、確かな感覚、確かな言葉。そんなことより、こうして無防備であることの方が、よっぽど大切であると思う」(136頁)となると、結局のところ、体制順応ってことなんでしょうね。
瀬戸良枝 集英社 2007年1月10日発行
20代半ばの女性を、これだけ無様に屈辱的に描けるのは珍しいとはいえますが、なんか露悪的・自虐的で読後感がよくないですね。今風でない、どこかねっとりと絡むくせのある文体は、もう少し骨のあるテーマだったら、それなりに生きるかもしれませんが。
幻と戦った後、エンディングが、ぶらぶらしていないで働けと言っていた兄から薬局の手伝いをしてくれと言われたのが優しく感じたというのでは、夢を追って敗れた者に、夢を追う前の敷かれていたレールに乗る普通の人生がやっぱりよかったという教訓を垂れているようで、いやらしい感じがしました。
カップリングされている「鸚鵡」は、主人公の女子高校生が、弟の同級生男の乱暴で独善的な性交に辟易しつつ姉の同級生女のキスに陶酔しというように、受け身の性行為に翻弄されながらニヒルな考えに浸る、ちょっと70年代風の作品に見えます。しかし、マルクスやウェーバー、デリダなんかを並べて「足を引っ張ることはあったとしても、一度だって世の中の役に立ったことなどないのにね」(114頁)というあたり、夢やぶれた元左翼転向者の匂い。「確かな行為、確かな感覚、確かな言葉。そんなことより、こうして無防備であることの方が、よっぽど大切であると思う」(136頁)となると、結局のところ、体制順応ってことなんでしょうね。
瀬戸良枝 集英社 2007年1月10日発行