伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

アイデアのちから

2009-01-10 11:44:31 | 実用書・ビジネス書
 アイディアを、というよりはメッセージを聞き手の記憶に焼き付かせるためには、情報をどのように選択してとりまとめ表現すればよいかを論じたビジネス書。
 著者のまとめた成功するアイディアの6原則は、単純明快で(Simple)意外性があり(Unexpected)具体的で(Concrete)信頼性があって(Credentialed)感情に訴える(Emotional)物語(Story)=SUCCESs。
 単純明快さは、ただ平易であるということではなく、アイディアの核となる部分を簡潔に述べることが必要。大事なことは的確さと優先順位。「3ついうのは、何もいわないのに等しい」そうです。ビジネス書ではよくポイントは3つあると言えと書いてありますが・・・。意外性については、驚きを与えることが重要だがそれが核となるメッセージが伝わったときに理解できる(振り返ってみれば納得できる)ものであることが必要で、ただ驚かせるだけでは無意味。もっとも、意外な事実を最初に出せという前段と、関心を継続させるためには謎から始めてヒントをちりばめ最後に謎解きをすべきという後段のズレが悩ましいところ。信頼性を得やすいメッセージの要素は、具体的な細部、統計、一番厳しそうなクライアントの信頼を得ているなどの事実(「ここでうまくいけば、どこへ行ってもうまくいくさ」というシナトラの歌から、著者はシナトラ・テストと呼んでいる)、聞き手自身が検証可能な信頼性。感情に訴えるでは、例えばアフリカの子供たちを救うための寄付を募るケースで、統計で説明するよりも具体的な1人の子どもを紹介する方が寄付が集まる、ここまではいいんですが、1つの計算をさせてから全く同じ1人の子どもの話を読ませて寄付を募るとただ子どもの話を読ませた場合より寄付額が大幅に(半分くらいに)減ったという実験(226~229頁)は衝撃的。物語ではシミュレーションとしての意味を持つものと人を励ます物語が記憶に残りやすく、挑戦(障害の克服)、絆(仲良くする、絆の回復)、創造性(新しい発想)の要素が人々を励ます物語となりやすい。
 様々な点で、考えさせられることの多い本です。アイディアを伝える上で最大の敵が「知の呪縛」(専門家は知識があるがために、その知識がない状態を理解できない→自分が理解できる抽象言語・専門用語で説明するだけで一般人も理解し関心を持つと思ってしまう)ということは、肝に銘じておきたいと思います。わかっていても対応が難しいテーマですが。
 私の仕事がら、とりわけ実感するのは、信頼性の点で、具体的な細部があることが信頼性を増すという話。いつも依頼者に陳述書や証言には事実のディテールが重要で重要なことが起こった当時のことはつまらないことでもとにかく詳しく思い出してくださいと言っているんですが、一般人なのに具体的な事実や具体的な言葉でなく抽象的に言いたがる人が多いんですね。抽象的な言葉をしゃべりたがるのは、専門家だけじゃないんです。
 ところで、著者の名前が、本文の中でだけ「ヒース」(20頁)になっているのはなぜでしょう。タイトルも「アイディア」じゃなくて「アイデア」なのはどうして?


原題:Made to Stick : Why Some Ideas Survive and Others Die
チップ・ハース、ダン・ハース 訳:飯岡美紀
日経BP社 2008年11月17日発行 (原書は2007年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする