伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

遠ざかる家

2009-01-17 10:32:44 | 小説
 特に問題なくやってきた47歳歯科医が、子どもは大学に行き自活、妻も義父の介護を理由に実家に帰って戻ってこず、NHKのディレクターだった兄は単身赴任中の妻の不倫が原因でかアル中で入院といったできごとの中で、祖父の代からの家族の過去の記憶と向きあいながら、家族を考え喪失感・諦念・解離感に囚われるというようなお話。
 家族のというか一族の記憶、血の(血族の)記憶という感じの重苦しさ、近親者を失った者の哀しみの感情の処理を解離・離人感への転換で図るやりきれなさといったものに満ちています。ストーリーはそれなりに展開しているようでいて、そういった重苦しさのためもあり停滞感・閉塞感が先立ちます。問題なくやってきた夫に、ぼんやりして話しかけても返事もしないことがある、何を考えているのかわからない、私には居場所がないなどといって実家に帰ったまま戻らない妻には共感できませんでしたが、一族の過去の記憶に入れてもらえない妻の居心地の悪さと捉えれば、まぁそうなのかなとも思えます。
 いずれも5歳で娘を失った祖父の代、父の第2代の重苦しさを、8歳まで育った娘を希望に明るさを見出そうとするエンディングは、しかし、8歳はおろか40代まで育った妻や兄嫁が暗い思いをしていることからすると、自己満足的な思い込みの域を出ないと思うのですが。
 「胸に付けてるマークは流星・・・和也の好きだったマンガの主題歌だ」(212頁)って、私と同い年の小学生時代にリアルタイムで見たはずの世代が、「ウルトラマン」(実写特撮怪獣もの)をマンガと間違えるというのはちょっと信じがたい。


片山恭一 小学館 2008年6月30日発行
コメント
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