伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

サヨナライツカ

2010-09-18 23:40:15 | 小説
 日本に婚約者がいるバンコク駐在の航空会社広報室勤務の青年東垣内豊が、ホテルザ・オリエンタル・バンコクのサマセットモームスウィートに住む謎の美女真中沓子の誘惑に乗って結婚式までの数ヶ月爛れた性生活を送るが、豊は迷いながらも沓子に求められても一度として愛しているとさえいわず、沓子は身を引き、豊は婚約者と結婚する。その後25年を経て沓子は豊を忘れられずに独身を貫き再会するが・・・という恋愛小説。
 勤務先の創業者未亡人に紹介された華族出身の才色兼備の令嬢と婚約するという打算計算で生き、その通りに出世を続ける男(もっとも、バンコクで彼に与えられた最大の仕事のバンコク日本人会への浸透を沓子との派手なアヴァンチュールで台無しにしたにもかかわらず出世街道をひた走れるほど企業社会は甘いものかとは思いますが)の、自分の人生はそれでいいのか、よかったのかという思いを通じて、会社人間たちのノスタルジーをターゲットにした小説というのが1つめのポイント。
 そして魅力的なファム・ファタル(運命の人あるいは悪女くらいにしておきましょう)に誘惑されて数ヶ月間愛欲の日々を味わい、その相手が25年も30年も自分と妻の平穏な生活に何ら介入しないで自分のことを慕い続けてくれるという、世の男性の憧れ・妄想(女性向けの「白馬に乗った王子様」ファンタジーと似たようなもんですね)に訴えるのが2つめのポイント。
 そういう小説かな、と思います。
 若者時代の小ずるい豊を振り回す沓子の魅力が、壮年期には組織の上に立つ成功した豊と忍ぶ恋を続け3歩下がってへりくだる沓子という古風な関係に落とし込まれるのがいかにも哀しい。この小説が企業戦士たちの都合のいい妄想に奉仕するものであれば、沓子がそのように変貌することは必然ではありますが。


辻仁成 幻冬舎文庫 2002年7月25日発行 (単行本は2001年)
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IN

2010-09-18 17:51:02 | 小説
 担当編集者との間でW不倫を繰り広げ大げんかの末に別れたばかりの女性作家が、数十年前に大作家が自らの不倫が妻に発覚して妻と愛人の板挟みとなる様子を書いた私小説の名作「無垢人」の匿名の愛人の謎を取材して小説化するというストーリーで作家の創作と恋愛、小説における事実と虚像などを論じる小説。
 作家と編集者のW不倫の顛末、「無垢人」の関係者への取材、架空の小説「無垢人」の内容(展開)という3つが順次進行していきますが、どの話も作家が主体だったり議論のテーマだったりで、全体としては作家とは、小説を生み出す苦しみはというような内輪話めいた感じがします。作家が他の作家の創作の過程を検討し追求していくというのは、弁護士が他の弁護士の弁護過誤を調査することと似て・・・と考えると重苦しいですね。
 そういうことに興味は持てますが、同時にそれをまた小説のネタにしてしまうのは、ネタ詰まりなのかなぁと感じてしまいます。


桐野夏生 集英社 2009年5月30日発行
「小説すばる」2006年11月号~2008年5月号連載
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刑事魂

2010-09-18 17:47:49 | ノンフィクション
 警視庁の元警察官が経験した事件の捜査や思いを綴った本。
 死体や現場の状況で事件性を判断する際に教科書的な知識で対応できない例が紹介されていて参考になりました。車の運転席で死亡している人を朝に警察官が見たときには顔面蒼白で首に絞められた跡もなかったのに、観察医務院の医師が到着したのが夕方で監察医は顔面が鬱血していて首に絞められた跡があるので殺しの可能性があるという(56~58ページ)。それがネクタイをしたまま時間が経ったために絞められた跡が付き鬱血したとか。嬰児の腹に死斑があるので本当はうつ伏せで死んだと疑ったが解剖の結果はそうではなかったとか(65ページ)。
 昔は取調の間は被疑者も自由にたばこが吸えたのでヤクザなどは素直に取調に応じていたとか、余罪を自白したらカツ丼をごちそうしていた(183ページ)という実情もあっさり書かれてたり、自分が取り調べた女が今は妻だ(179~180ページ)なんて危ない話も出ています。
 警察に逮捕されたことのない人間は刑事の尾行に気付いているようでも気付いていない(151ページ)とか、高級国産車の合い鍵も現場で10分で作れる(96~97ページ)とか、風呂屋の番台に座っていると女の裸を見ても何ともなくなるがたまに絵から抜け出たような美人が来て気になって洗い場の方を覗いてしまうと決まって覗いた瞬間に番台を振り返る、「女は背中に目を持っている」(113~114ページ)とか・・・気をつけておきましょう。


萩生田勝 ちくま新書 2010年4月10日発行
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