消費税の本質を「弱者のわずかな富をまとめて強者に移転する税制」とし、消費税率の引き上げが行われれば中小・零細の事業者、とりわけ自営業者がことごとく倒れ、正規雇用から非正規雇用への切り替えがいっそう加速してちまたにワーキング・プアや失業者が群れをなし自殺者が増加するのが必定と論じる本。
著者の論旨の柱は①中小・零細事業者は大企業との競争や下請けいじめのために価格転嫁ができない(要するに実質的に消費税を取れない)にもかかわらず売上(販売価格)の105分の5は消費税と扱われ、もらってもいない税金を自腹を切って払わなければならない、不景気で利益がほとんど出ない中を自腹を切って消費税を支払うのはかなり無理になってきているのに徴税当局の取立は厳しくなり、自営業者の自殺が増えている、②消費税の計算で従業員の賃金は仕入れとは認められず税額控除の対象とならないが、派遣社員や請負(外注)にすると仕入れ税額控除の対象となり、正社員を派遣社員や請負に切り替えると消費税が少なくなるため、消費税が非正規社員への切り替えを後押ししている、③輸出企業が仕入れで支払った消費税は還付されるが、大企業は実質的には仕入れの際に消費税を支払っていない(消費税額以上に値引きさせている)から戻し税分丸儲けで、その実態は輸出補助金に等しい、その金額は自動車、電器等の上位10社だけで年間1兆1450億円にも上っている、この還付金は消費税率が上がればそれだけ増え、だから財界は消費税率アップに熱心だというもの。
②の点を少し敷衍すると、年俸315万円の正社員1人を同じ金額で派遣か外注に切り替えたとすると、実質的に人を雇っていることは変わらないのに、派遣や外注なら仕入れ扱いされてその105分の5=15万円の消費税を仕入れで支払った扱いとなり、支払う消費税が15万円少なくなるわけ。もちろん、派遣や外注にさらに消費税分乗せて支払うなら計算上は得にならないけど、日本では正社員より派遣や請負の方が賃金が安いのが普通だから、正社員を派遣に切り替えれば消費税分上乗せどころか賃金支払い自体も安くなるのが普通。そうすると会社は同じ仕事をさせて賃金が安くなる上に消費税も減って丸儲け。目先の利益に走る強欲な経営者の目には、これで非正規雇用に切り替えない理由はないってお話。実にわかりやすい。
①の点も、実際にはもらえていない消費税を、昨今のマスコミとそれに洗脳された一般市民から「私たちの払った消費税」「預かり金」をポケットに入れているかのように誤解された自営業者が非難される構図が作られ、③の点は問題化されず消費税で得している大企業、特に輸出企業には非難の目が行かないという不正義が生々しく読めます。
弱点としては、はじめにの最初の一文の「本書は消費税論の決定版である」に象徴される強烈な自負が論調をやや強引に感じさせることと、EC型付加価値税との比較対照が中途半端な形で投げ出されていることがあります。私は、それでもおもしろく読めましたが、敵意を持って読む人たちを説得するにはそのあたりがネックになるかも。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/kaeru_en1.gif)
斎藤貴男 講談社現代新書 2010年7月20日発行
著者の論旨の柱は①中小・零細事業者は大企業との競争や下請けいじめのために価格転嫁ができない(要するに実質的に消費税を取れない)にもかかわらず売上(販売価格)の105分の5は消費税と扱われ、もらってもいない税金を自腹を切って払わなければならない、不景気で利益がほとんど出ない中を自腹を切って消費税を支払うのはかなり無理になってきているのに徴税当局の取立は厳しくなり、自営業者の自殺が増えている、②消費税の計算で従業員の賃金は仕入れとは認められず税額控除の対象とならないが、派遣社員や請負(外注)にすると仕入れ税額控除の対象となり、正社員を派遣社員や請負に切り替えると消費税が少なくなるため、消費税が非正規社員への切り替えを後押ししている、③輸出企業が仕入れで支払った消費税は還付されるが、大企業は実質的には仕入れの際に消費税を支払っていない(消費税額以上に値引きさせている)から戻し税分丸儲けで、その実態は輸出補助金に等しい、その金額は自動車、電器等の上位10社だけで年間1兆1450億円にも上っている、この還付金は消費税率が上がればそれだけ増え、だから財界は消費税率アップに熱心だというもの。
②の点を少し敷衍すると、年俸315万円の正社員1人を同じ金額で派遣か外注に切り替えたとすると、実質的に人を雇っていることは変わらないのに、派遣や外注なら仕入れ扱いされてその105分の5=15万円の消費税を仕入れで支払った扱いとなり、支払う消費税が15万円少なくなるわけ。もちろん、派遣や外注にさらに消費税分乗せて支払うなら計算上は得にならないけど、日本では正社員より派遣や請負の方が賃金が安いのが普通だから、正社員を派遣に切り替えれば消費税分上乗せどころか賃金支払い自体も安くなるのが普通。そうすると会社は同じ仕事をさせて賃金が安くなる上に消費税も減って丸儲け。目先の利益に走る強欲な経営者の目には、これで非正規雇用に切り替えない理由はないってお話。実にわかりやすい。
①の点も、実際にはもらえていない消費税を、昨今のマスコミとそれに洗脳された一般市民から「私たちの払った消費税」「預かり金」をポケットに入れているかのように誤解された自営業者が非難される構図が作られ、③の点は問題化されず消費税で得している大企業、特に輸出企業には非難の目が行かないという不正義が生々しく読めます。
弱点としては、はじめにの最初の一文の「本書は消費税論の決定版である」に象徴される強烈な自負が論調をやや強引に感じさせることと、EC型付加価値税との比較対照が中途半端な形で投げ出されていることがあります。私は、それでもおもしろく読めましたが、敵意を持って読む人たちを説得するにはそのあたりがネックになるかも。
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斎藤貴男 講談社現代新書 2010年7月20日発行