伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

ヴァイツゼッカー ドイツ統一への道

2011-01-08 20:25:53 | 人文・社会科学系
 東西ドイツ統一時のドイツ大統領だった著者がドイツ統一に至るまでの回想や統一後もなお真の統一の途上であるとの認識からの提言を綴った本。
 ドイツ統一時においてもバラ色の将来ではなく分かち合う忍耐を説き、ソ連/ロシアについても敵対よりも経済関係を深めて取り込むことの重要性を説き、さらには昨今のイランについても核保有国に囲まれたイランの状況への理解が必要とする著者の姿勢は、俗耳に入りやすい原理主義や排外主義のアジテーションを排し現実的でありながら理性と倫理を感じさせる本来の意味での政治家らしいものです。日本やあるいはアメリカではあまり聞くことのできない、ラムズフェルドのいう「古いヨーロッパ」の知性を感じさせるところが、この種の本の読みどころといえます。
 しかし、肝心のドイツ統一に至る過程については、特段の裏話も見られず(政治家としての活動よりも先行するキリスト教信徒会としての活動が強調されているのが、あまり語られない事実というところでしょうか)、記述が断片的な感じがします。必ずしも時代を追っているという感じでもなく、また話が飛んでいるところが多々あり、著者自身の政治活動の流れや地位との関連の説明もあまりなく、読んでいて流れがわかりにくいというのが、難点です。統一に至った過程も、政治的配慮でしょうけれども、旧東ドイツの市民たちが学び立ち上がったことへの賞賛が前面に出されて、それ以外の統一に至った力の分析もなく(ゴルバチョフが力の行使を押しとどめたことは書かれているけれども)、直接のテーマについてはちょっと拍子抜けするというか今ひとつ納得感を得にくく思いました。


原題:DER WEG ZUR EINHEIT
リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー 訳:永井清彦
岩波書店 2010年9月28日発行 (原書は2009年)
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