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伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

この世は二人組ではできあがらない

2011-01-26 08:37:49 | 小説
 大学を出てアルバイトや契約社員をしながら小説家を目指す墨田栞が、大学の1年先輩の紙川と同棲したり離れて資金援助したりしながら、男女のありようと生き方について思索を続ける小説。
 日付で区切られてはいませんが、日記をつなげたような文体で綴られています。
 主人公の設定が生年、大学、新人賞受賞時期などおおかた作者と重ねられていて、作者が日々感じてきた男女関係と女性の生き方についての思いを綴っているのかなと感じられます。
 タイトルにも見られるように男女でセットの人生を求める周囲、特に男が経済的に自立して女をリードしなければ、女は男を立てなければという社会の規範というか圧力に対する作者の違和感・反発が随所に見られます。「女のことを、性的な存在になってからが大人だ、と捉えているのではないだろうか。男のことは、性に関係なく、社会的に有能になってからが大人だと捉えているのに。」「女だって、セックスで大人になるんじゃない。社会でのし上がって大人になるんだよ。」(46ページ)とか、「『泣いてはいけない』という社会通念は、男社会だった頃のただの名残ではないだろうか。現代においては、男っぽく仕事をする必要なんてない。泣かれて動揺する方が悪い。泣く方は、何も動揺させるために泣いているのではないのだから。相手が動揺するから、『泣くな』、社会的な場所では、『感情を出すな』というそれは、肌を見せられると劣情を起こしてしまうから、『ベールを被れ』という論理と、同じではないか。」(50ページ)とか。
 ちゃらんぽらんな性格で栞から資金援助を受けて返せない/返さないのに、男としての見栄を張る紙川を、少し距離を置いて眺める栞の視線が、全体を貫く中、こういった栞の言葉がちりばめられて、メッセージ性が強くなっています。
 そのテーマの中で中心的なメッセージとも思われ、私が一番気に入った栞のつぶやき:「人はひとりで完全だ。だからベターハーフなんて探していない。価値はひとりの人間に十分ある。」「人と人とは、関係がない。誰も、誰かから必要とされていない。必要性がないのに、その人がそこにいるだけで嬉しくなってしまうのが、愛なのではないか。」(106~107ページ)。現実にはいろいろと難しいけれど、憧れと青春時代へのノスタルジーも込めて噛みしめました。


山崎ナオコーラ 新潮社 2010年2月25日発行
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