伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

防犯カメラと刑事手続

2014-01-19 20:31:17 | 人文・社会科学系
 街頭防犯カメラの設置と撮影データの管理・利用についての法的根拠等を論じた本。
 警察による街頭防犯カメラの設置とその撮影データの捜査・裁判への利用の法的評価を最初から公平に論じるのではなく、それを正当化する法律構成を考えるというスタンスの本だと、私は思います。
 街頭防犯カメラの設置によって犯罪抑止効果があるかについて、この本が紹介している実証研究を見ると、効果があったとする研究もあるが、効果が全くないとか望ましくない効果が出ているとする研究も少なからずあり、公平に見れば防犯カメラ設置の犯罪抑止効果はハッキリしないと評価すべきように私には思えます。この本では、この部分での小活では「少なくとも、犯罪抑止効果(防犯効果)に関しては『それがあるかないか』の二項対立で論じられる簡単なものでは決してない」(40ページ)と論点をずらす形で、捜査への利用の利点などにつなげています。
 この本では防犯カメラの設置についての世論調査を示して、「街頭防犯カメラに関しては、イギリスおよびアメリカにおいても肯定的な評価が優勢であり、また、わが国でも、かなり際立った支持を集めている」としています(54~58ページ)が、アンケートの実施主体が防犯カメラ推進団体であったりする上に、そもそももしこの本で紹介された実証研究の結果のように犯罪抑止効果がハッキリしないとかほとんどないという実証研究が相当数ある(実質的なメリットは犯罪捜査に使えることくらい)と市民が知ったらそれでも防犯カメラの設置がそれほどの支持を受けられるでしょうか。市民の支持は防犯カメラに犯罪抑止力があるという幻想に基づくものではないでしょうか。法学者がこの本を書いているのにそういう点にまったく注意を払わないというあたりで、私はこの著者の姿勢のバイアスが気になりました。
 防犯カメラを巡る法規制と裁判例での評価について、この本では防犯カメラが世界一普及しているイギリスと、アメリカでの議論だけを紹介しています。イギリスで防犯カメラのデータ利用を正当化した判決がヨーロッパ人権裁判所で覆されたケースも紹介されているのに、その後それについてのイギリス政府の評価を紹介するだけで、EU法やEUでの評価には触れられていません。イギリスの裁判所が適法と判断したものをヨーロッパ人権裁判所が違法だと判断しているのですから、EUではイギリスとは違う法規制、違う法的評価がなされていることが予想できます。しかしこの本ではイギリスとアメリカ以外の外国法には触れようとしません。この点も、著者の姿勢に疑問を感じさせるところです。ただし、このイギリスとアメリカの裁判例紹介は、比較的多くのケースが紹介されていて、仕事がら興味深く読めました(この部分が私にとっては一番眠くなかった。法律業界以外の人には逆かもしれませんが)。
 ただし、イギリスの法規制の紹介の中で、イギリスのデータ保護法では防犯カメラ映像のデータ主体のアクセス権、つまり画像を記録された個人は自らその画像を見てそのコピーの提供を求めることができることが定められているとされ(105ページ)、このことは大変重要なことと私には思えたのですが、この本では日本での法規制を考える段になるとなぜかイギリス法のこの部分はまったく触れられません。こういうあたりも著者の姿勢を疑わせるところです。
 日本での判例を検討する部分でも、写真撮影について最高裁判決を始め裁判所が現行犯かそれに準ずる状態での写真撮影を容認したというものが多いのに、警察による防犯カメラ設置については「行政警察活動」として(つまり犯罪防止目的で)より緩やかな要件でできると論じて、大阪地裁の1判決を偏重してそれに依拠する姿勢を見せています。この本で紹介された実証研究では街頭防犯カメラの犯罪抑止効果がハッキリしないのに、警察が街頭防犯カメラを設置することはそれを理由に容認しろということ自体、著者の姿勢の誠実性に疑問を感じます。そして結局はその防犯カメラで撮影した映像を捜査や裁判で利用するし、そのことが最初から予定されているというか、本当はそれが最初から目的と思われるのに、設置段階ではまるでそのことを無視して容認できるとするのは羊頭狗肉だと、私は思います。


星周一郎 弘文堂 2012年11月15日発行
コメント
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