使用者側の弁護士らが企業の人事労務担当者向けに労働法について幅広く解説した本。
著者は「企業人事労務研究会」という団体名になっていますが、執筆者は弁護士7名と社会保険労務士2名で、編集代表は登録8年(2005年9月修習終了、58期)の弁護士、編集者は登録5年(2008年12月弁護士登録、新61期)の弁護士となっています。
労働法の解説としては、幅広い分野について説明の重点の置き方に工夫しながら要領よく説明している点はよくできていると思います。しかし、「コラム」では使用者側の弁護士の現行法制度や裁判実務への不満というか愚痴を書き連ねていて、やや見苦しい。労働者の弁護士としてみると、あまりに使用者側の言いたい放題で辟易します。弁護士の本音というよりもクライアントである企業への迎合なのかもしれませんが。
「使用者」についての説明(39~40ページ)で、労働者派遣と出向を例として挙げて図示し、「労働者派遣法上、派遣元企業が使用者であるとされています」とし、図でも派遣元企業に「使用者」との吹き出しを付け、これに対比して出向では「出向元企業も出向先企業も使用者としての地位を有します」とし、図でも出向元企業にも出向先企業にも「使用者」との吹き出しを付けています。つまり、ここでの説明で使用者とされないのは、労働者派遣の場合の派遣先企業だけです。その上で、この本はその説明に引き続いて、「労働契約上の使用者に該当すると、その企業は、労働者の安全に配慮する義務など労働契約上の義務を負うことになります」としているのです。これを読む普通の読者は、派遣労働者について派遣先は安全配慮義務を負わないのかと読むと思います。この本の「使用者」の説明はわずか13行で、執筆者は、派遣先は派遣労働者に対して安全配慮義務を負わないという説明をしたいがためにこの部分を書いているように感じられます。そして、弁護士には言うまでもないことですが、その説明は完全な誤りです。労働者派遣業法第45条は派遣先に対して労働安全衛生法上の各種の義務を負わせていますし、過労自殺などの事例で派遣先の安全配慮義務違反を認定した有名な判例があります。仮に執筆者の不勉強のために派遣法の規定や安全配慮義務についての判例を知らなかったとしても、そもそも派遣労働者は一人で派遣先に赴いて労働することも多々あるわけで派遣労働者の労働現場を管理している派遣先企業に安全配慮義務がないなどということは、通常の弁護士の感覚ではおよそ考えられません。私は、自分が労働者側の弁護士だからということもありますが、派遣労働者に対して派遣先が安全配慮義務を負わないなどということを本気で考えるような弁護士には労働事件を扱って欲しくないと思います。
この「使用者」の説明部分はあまりに非常識なので、チェックミスで残ったのだと考えたいところですが、私にとっては流し読みしていてもギョッとしたところで、労働法をわかっている弁護士が見落とすようなところとも思いにくい。「コラム」で使用者側の言いたい放題が書かれていることからすると、この「使用者」の説明部分が実は執筆者の傾向をよく示しているということかもとも思えてしまいます。

企業人事労務研究会 日本リーダーズ協会 2014年4月30日発行
著者は「企業人事労務研究会」という団体名になっていますが、執筆者は弁護士7名と社会保険労務士2名で、編集代表は登録8年(2005年9月修習終了、58期)の弁護士、編集者は登録5年(2008年12月弁護士登録、新61期)の弁護士となっています。
労働法の解説としては、幅広い分野について説明の重点の置き方に工夫しながら要領よく説明している点はよくできていると思います。しかし、「コラム」では使用者側の弁護士の現行法制度や裁判実務への不満というか愚痴を書き連ねていて、やや見苦しい。労働者の弁護士としてみると、あまりに使用者側の言いたい放題で辟易します。弁護士の本音というよりもクライアントである企業への迎合なのかもしれませんが。
「使用者」についての説明(39~40ページ)で、労働者派遣と出向を例として挙げて図示し、「労働者派遣法上、派遣元企業が使用者であるとされています」とし、図でも派遣元企業に「使用者」との吹き出しを付け、これに対比して出向では「出向元企業も出向先企業も使用者としての地位を有します」とし、図でも出向元企業にも出向先企業にも「使用者」との吹き出しを付けています。つまり、ここでの説明で使用者とされないのは、労働者派遣の場合の派遣先企業だけです。その上で、この本はその説明に引き続いて、「労働契約上の使用者に該当すると、その企業は、労働者の安全に配慮する義務など労働契約上の義務を負うことになります」としているのです。これを読む普通の読者は、派遣労働者について派遣先は安全配慮義務を負わないのかと読むと思います。この本の「使用者」の説明はわずか13行で、執筆者は、派遣先は派遣労働者に対して安全配慮義務を負わないという説明をしたいがためにこの部分を書いているように感じられます。そして、弁護士には言うまでもないことですが、その説明は完全な誤りです。労働者派遣業法第45条は派遣先に対して労働安全衛生法上の各種の義務を負わせていますし、過労自殺などの事例で派遣先の安全配慮義務違反を認定した有名な判例があります。仮に執筆者の不勉強のために派遣法の規定や安全配慮義務についての判例を知らなかったとしても、そもそも派遣労働者は一人で派遣先に赴いて労働することも多々あるわけで派遣労働者の労働現場を管理している派遣先企業に安全配慮義務がないなどということは、通常の弁護士の感覚ではおよそ考えられません。私は、自分が労働者側の弁護士だからということもありますが、派遣労働者に対して派遣先が安全配慮義務を負わないなどということを本気で考えるような弁護士には労働事件を扱って欲しくないと思います。
この「使用者」の説明部分はあまりに非常識なので、チェックミスで残ったのだと考えたいところですが、私にとっては流し読みしていてもギョッとしたところで、労働法をわかっている弁護士が見落とすようなところとも思いにくい。「コラム」で使用者側の言いたい放題が書かれていることからすると、この「使用者」の説明部分が実は執筆者の傾向をよく示しているということかもとも思えてしまいます。

企業人事労務研究会 日本リーダーズ協会 2014年4月30日発行