伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

話がこじれたときの会話術

2014-09-29 22:45:02 | 実用書・ビジネス書
 紛争当事者の話を聞き質問をしながら当事者の考えを一定方向に整理誘導して合意に導く職業的調停者のテクニックについて説明した本。
 著者はその手法をNarrative Mediationと名付け、この本ではそのままカタカナにしてナラティヴ・メディエーションとしていますが、紛争当事者が相手についてあるいは自分と相手との関係について持っている見方を「対立の物語」から相手方に対する反発・憎しみ以外の側面を引き出し相手方への理解を育てていって「関係の物語」へと書き換えていくことにより話し合い・和解の基礎を作っていくという調停(Mediationは「仲裁」ないし「調停」の意味ですが、この本ではMediatorが決定をすることは予定されていないので調停の方が適切と思います)手法を意味するようです。
 紛争当事者の話をよく聞いて、相手方への反感・憎しみのストーリーとともに持つ矛盾した感情を注意深く見つけ出し、それを当事者に「質問」の形で引き出し語らせ認めさせていくことで当事者自身が解決したいという気持ちを醸成していくこと、問題は人間(相手方)にあるのではなく問題(事件・事故)自体が問題なのだということを意識的に示していくことなどのテクニックが示されています。
 弁護士の目から見ると、当事者の気持ちにより添うような態度を示しつつ実は当事者の気持ちと反対の(相手方に少しでも有利な)部分の芽を執拗に探し出し、人のいい当事者から相手方に少しでも同情する部分を認めさせるような発言をあくまでも自発的になされたような形で引き出すような質問を続けて当事者が相手を許容するような態度を取るように誘導し、大幅に譲歩した条件での和解合意に持ち込む手法と見えます。公平な立場の専門家のような装いで、人のいい素人の被害者を手玉に取る、加害者側に雇われた調停者の手口が解説されているとも言えます。
 著者の1人は、病院側に雇われて高額医療過誤のケースで調停をするコンサルタントです。最初の説例も、医療過誤のケースで、医療過誤被害者と救急医の間の調停を挙げて、医師の側も深く悩み傷ついていることを強調しています。しかし、そもそもこの説例でも、自らが誤って注射をしたわけでもない救急医を当事者とすること自体作為的に見えます。チーム医療でのミスということからしても加害者側の当事者は病院だと思うのですが、病院は前に出ることはなく救急医個人を当事者とすることで個人としての悩みや反省が語られて被害者の憎しみがほぐされて(はぐらかされて)行くことになり、専門家の手腕によって結果として病院は高額の損害賠償を免れるということになるわけです。私にはまさしく人のいい被害者が専門家に手玉に取られて本来得られるはずの賠償を大幅に値切られるしくみに見えるのですが。


原題:WHEN STORIES CLASH : Addressing Conflict with Narrative Mediation
ジェラルド・モンク、ジョン・ウィンズレイド 訳:池田真依子
北大路書房 2014年6月20日発行 (原書は2013年)
コメント
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