伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

魔道師の月

2014-09-17 23:38:06 | 物語・ファンタジー・SF
 「夜の写本師」で親友の妹を助けられなかった魔道師キアルスが、失意のうちにさまよいコンスル帝国で辿り着いたイラネス神殿の管理者カーランの導きで約400年前の世界に迷い込みそこで知った情報を元に、コンスル皇帝を唆す「純粋な悪意」の存在である「暗樹」と戦うファンタジー。
 「夜の写本師」でキアルスが、親友の妹であるオイルの領主の娘を失った後、姿を変えて後の世界に生まれ変わるまでの間を埋める位置づけになりますが、それ以上の連携はなく、キアルス以外の登場人物は重なりません。魔道師がいる世界という設定と、昔の世界に入り込むというパターンが共通しているという程度で、「夜の写本師」の続編というよりは世界観を共通にする別の作品として読んだ方がいいでしょう。
 最初にコンスル帝国の皇太子の寵愛を受ける魔道師レイサンダーのエピソードで18ページ、それと関係なく登場したキアルス(あるいはキアルスとカーラン)のエピソードで59ページ話が展開した後、唐突に400年前の世界のテイバドールのエピソードが132ページ続きます。読んでいてちょっとこれは何だと思います。「指輪物語」でフロドが行方不明のままで延々と話が進むのと似たような印象もありますが、それをやるにしてももう少しキアルスで展開してからじゃないかと思います。巻頭に「コンスル帝国版図」という地図があるのですが、これがテイバドールのエピソードを始め、その後の多くのページで登場する地名がこの地図中になくて、役に立ちません。後になってこの地図からはみ出した地域なのだとわかりますが、当分は、時代が違うから村落とかの位置や名前が変わっているのかと戸惑いながら読み進めることになります。そのあたり、不親切感が漂います。
 「暗樹」と、魔道師が抱える「闇」をテーマとしているのですが、人間が誰しも抱える闇の部分という捉え方を示しながら、他方で「純粋な悪意」としての「暗樹」を登場させ、暗樹が唆すことで持ち主が凶暴化・暴君化し破滅に至るという設定をすることは悪意を人間の外に置いて本来は善意の人間が操られるというイメージとなります。ある意味では、さまざまな悪意、さまざまな闇の存在を考えさせられるとも言えますが、悪意と闇の位置づけが、人間のうちにあるのか外にあるのか中途半端な感じがしました。


乾石智子 東京創元社 2012年4月25日発行

「夜の写本師」については2014年8月23日の記事で紹介しています
コメント
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