信販会社のコールセンターで滞納者に対する督促業務を担当していた著者が、コールセンター業務の過酷さと督促業務のノウハウを語った本。
朝7時に出社して午前8時から夜9時まで督促の電話をかけ続け、その後夜11時まで督促状の発送を続けるというコールセンターの業務についても、たまたまそこが「ブラック部署」だっただけで信販会社全体はそうではないと擁護する社畜ぶり。
滞納者が逆ギレしたり脅迫する様子を書き立て、督促者側は強い言葉は言わず(本当かな?)丁寧な言葉でいつ払うかを約束させて、次はお客様が払うと言うからお待ちしていたのにと客の良心の呵責を責め立てて入金させていくというテクニックを披露しています。100万円以上もする水晶玉の代金を年金で支払い続けるおじいちゃんへの督促や、カードを男に渡してキャバクラの代金を支払っている女性への督促、女性から高額の健康食品を買わされている男性客への督促などでは同情しているような記述もあります。これらは、滞納者が自分で買った/借りたものを返さないのが悪いという原則的な立場で、滞納者が良心の呵責を感じているのにつけ込んで、督促者が支払を勝ち取っていく、その中で若干かわいそうかなという気持ちもないではないよというスタンスを取っているわけです。
しかし、こういった滞納者は、信販会社が、クレジットカードを発行し、大量宣伝で本来は必要もない者にまでカード契約をさせて、カード契約をしなければ買わなかった/買えなかった物まで購入できると思わせた上で、信販会社や販売店の宣伝やセールストークで煽り立てて高額商品を現実に買わせたために、月々の収入では払えないような借金を抱えてしまい、滞納者になっているというのが実情だと思います。アメリカで本来は住宅ローンを組めないレベルの低所得者に、支払えるかのような幻想を持たせた宣伝をして貸付をしたことが「サブプライムローン問題」として問題になりましたが、信販会社がやっていることはサブプライムローンと同じだと思います。この著者が同情しているように見せている人たちも、クレジットカードなり信販会社の割賦販売制度がなければ、決して100万円以上する水晶玉を買わされたり、男のキャバクラ料金を支払わされたり、多額の健康食品を買わされたりしていないはずです。信販会社の営業というのは、大企業の営業を決して悪くいわず常に正当化する現政権やマスコミでは批判的に採りあげられることはないですが、実態はそういうものです。それを棚に上げて、払えなくなった者だけが悪いかのように描いて「逆ギレ」される督促者がまるで被害者のようにいうことには、強い疑問を感じます。
さらに、督促をしているのは、長期滞納になると信用情報が悪くなり客のためにもならないからなどという正当化もしています。信用情報機関というのは、現在では貸金業法上のシステムの一環ですが、もともとは信販会社と消費者金融の団体が設立したもので、顧客の信用情報を集約して延滞等の情報を交換してクレジットカードの入会査定等に利用するためのものです。そして延滞すると信用情報が悪くなって借りられなくなるぞ(さらには以前は過払い金請求なんかしたらブラック登録されるぞ)という圧力をかけて、支払を督促する(以前は過払い金請求も抑止する)のが信販会社・消費者金融の常套手段でした。これはまさに信販会社の利益のための制度で、それを客の利益のためであるかのようにいうのは本末転倒です。
私には、著者の言い分にはまったく共感できないものの、信販会社の督促という阿漕でかつ過重な労働をしている者が、自らの労働と社畜ぶりをどのように自分に言い聞かせて正当化しているしているかを知らせてくれるという点で参考になる本でした。
榎本まみ 文春文庫 2015年3月10日発行(単行本は2012年9月)
朝7時に出社して午前8時から夜9時まで督促の電話をかけ続け、その後夜11時まで督促状の発送を続けるというコールセンターの業務についても、たまたまそこが「ブラック部署」だっただけで信販会社全体はそうではないと擁護する社畜ぶり。
滞納者が逆ギレしたり脅迫する様子を書き立て、督促者側は強い言葉は言わず(本当かな?)丁寧な言葉でいつ払うかを約束させて、次はお客様が払うと言うからお待ちしていたのにと客の良心の呵責を責め立てて入金させていくというテクニックを披露しています。100万円以上もする水晶玉の代金を年金で支払い続けるおじいちゃんへの督促や、カードを男に渡してキャバクラの代金を支払っている女性への督促、女性から高額の健康食品を買わされている男性客への督促などでは同情しているような記述もあります。これらは、滞納者が自分で買った/借りたものを返さないのが悪いという原則的な立場で、滞納者が良心の呵責を感じているのにつけ込んで、督促者が支払を勝ち取っていく、その中で若干かわいそうかなという気持ちもないではないよというスタンスを取っているわけです。
しかし、こういった滞納者は、信販会社が、クレジットカードを発行し、大量宣伝で本来は必要もない者にまでカード契約をさせて、カード契約をしなければ買わなかった/買えなかった物まで購入できると思わせた上で、信販会社や販売店の宣伝やセールストークで煽り立てて高額商品を現実に買わせたために、月々の収入では払えないような借金を抱えてしまい、滞納者になっているというのが実情だと思います。アメリカで本来は住宅ローンを組めないレベルの低所得者に、支払えるかのような幻想を持たせた宣伝をして貸付をしたことが「サブプライムローン問題」として問題になりましたが、信販会社がやっていることはサブプライムローンと同じだと思います。この著者が同情しているように見せている人たちも、クレジットカードなり信販会社の割賦販売制度がなければ、決して100万円以上する水晶玉を買わされたり、男のキャバクラ料金を支払わされたり、多額の健康食品を買わされたりしていないはずです。信販会社の営業というのは、大企業の営業を決して悪くいわず常に正当化する現政権やマスコミでは批判的に採りあげられることはないですが、実態はそういうものです。それを棚に上げて、払えなくなった者だけが悪いかのように描いて「逆ギレ」される督促者がまるで被害者のようにいうことには、強い疑問を感じます。
さらに、督促をしているのは、長期滞納になると信用情報が悪くなり客のためにもならないからなどという正当化もしています。信用情報機関というのは、現在では貸金業法上のシステムの一環ですが、もともとは信販会社と消費者金融の団体が設立したもので、顧客の信用情報を集約して延滞等の情報を交換してクレジットカードの入会査定等に利用するためのものです。そして延滞すると信用情報が悪くなって借りられなくなるぞ(さらには以前は過払い金請求なんかしたらブラック登録されるぞ)という圧力をかけて、支払を督促する(以前は過払い金請求も抑止する)のが信販会社・消費者金融の常套手段でした。これはまさに信販会社の利益のための制度で、それを客の利益のためであるかのようにいうのは本末転倒です。
私には、著者の言い分にはまったく共感できないものの、信販会社の督促という阿漕でかつ過重な労働をしている者が、自らの労働と社畜ぶりをどのように自分に言い聞かせて正当化しているしているかを知らせてくれるという点で参考になる本でした。
榎本まみ 文春文庫 2015年3月10日発行(単行本は2012年9月)