弁護士石田徹子が、遠縁(祖母の妹の孫)の持ち前の人なつこさと明るさで男を手玉に取りたかり続けて生きている同い年の小谷夏子が様々な問題を引き起こしてはその後始末を依頼して来るのに対し、当初は夏子を嫌悪して嫌々つきあっていたが、年を経るにつけて夏子の男の懐に飛び込む能力としたたかさに感心し、問題を引き起こすのを楽しみにするようになっていくという展開の小説。
破天荒で身勝手な夏子が主役の体裁を採っていますが、むしろ、語り手の弁護士石田徹子の新人時代から引退する年齢に至るまでの心境の変化と成長を描いた作品だと感じられます。
石田徹子が、新人弁護士磯崎が弁護士稼業の素晴らしいところは「人助けができるところです。困っている人を救えるところです。」と答えたのに対して、「どうやら、磯崎は平凡な弁護士になったようだ」と受け止め、「原告と被告のどちらかの希望が通れば、どちらかの願いが砕かれています」「依頼人の言い分が、いつも筋が通っているとは限りません。明らかに依頼人の方に、義がまったくないケースもたくさんあります。それが弁護士稼業です」「弁護士なら、依頼人から感謝されたのと同じぐらい、相手方から憎まれる覚悟です。いい結果と悪い結果のどちらも引き受ける覚悟ができて、一人前です」と語るシーン(384~386ページ)。言っていること自体は、その通りなのですが、石田徹子のように個人間の男女関係を主要な取扱分野として、小谷夏子のような身勝手で無理な主張をする依頼者の希望を通してきたという経験からはそういう評価になるのかも知れません。しかし、私のように個人の側で企業と闘うということが多い弁護士の立場からは、相手の願いが砕かれるという感覚はありませんし、確かにとても身勝手な依頼者はいますけれども、依頼者にまったく義がないケースはふつう勝てませんし、弁護士としての実感では多くの依頼者はそれほど無理な要求はしないでそこそこの第三者から見てもほどほどの適正と思えるところでの解決で満足していると思います。
荻原弁護士の石田徹子への指導で、相手に対して争っていること以外で腹が立ったのはどんなときか、争っている件以外で「おやっ」と思ったのはどんなときかを聞くようにしている(42ページ)というのは、いい視点だと思います。前者の腹が立ったときは、対立の真の原因がどこかを探るポイントに、「おやっ」と思ったときは、相手に対する違う視点での評価を意識させることで心情的に和解の糸口を探るポイントになりますから。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/kaeru_en2.gif)
桂望実 光文社文庫 2013年5月20日発行(単行本は2010年12月、初出は「週刊宝石」2010年2月号~9月号)
破天荒で身勝手な夏子が主役の体裁を採っていますが、むしろ、語り手の弁護士石田徹子の新人時代から引退する年齢に至るまでの心境の変化と成長を描いた作品だと感じられます。
石田徹子が、新人弁護士磯崎が弁護士稼業の素晴らしいところは「人助けができるところです。困っている人を救えるところです。」と答えたのに対して、「どうやら、磯崎は平凡な弁護士になったようだ」と受け止め、「原告と被告のどちらかの希望が通れば、どちらかの願いが砕かれています」「依頼人の言い分が、いつも筋が通っているとは限りません。明らかに依頼人の方に、義がまったくないケースもたくさんあります。それが弁護士稼業です」「弁護士なら、依頼人から感謝されたのと同じぐらい、相手方から憎まれる覚悟です。いい結果と悪い結果のどちらも引き受ける覚悟ができて、一人前です」と語るシーン(384~386ページ)。言っていること自体は、その通りなのですが、石田徹子のように個人間の男女関係を主要な取扱分野として、小谷夏子のような身勝手で無理な主張をする依頼者の希望を通してきたという経験からはそういう評価になるのかも知れません。しかし、私のように個人の側で企業と闘うということが多い弁護士の立場からは、相手の願いが砕かれるという感覚はありませんし、確かにとても身勝手な依頼者はいますけれども、依頼者にまったく義がないケースはふつう勝てませんし、弁護士としての実感では多くの依頼者はそれほど無理な要求はしないでそこそこの第三者から見てもほどほどの適正と思えるところでの解決で満足していると思います。
荻原弁護士の石田徹子への指導で、相手に対して争っていること以外で腹が立ったのはどんなときか、争っている件以外で「おやっ」と思ったのはどんなときかを聞くようにしている(42ページ)というのは、いい視点だと思います。前者の腹が立ったときは、対立の真の原因がどこかを探るポイントに、「おやっ」と思ったときは、相手に対する違う視点での評価を意識させることで心情的に和解の糸口を探るポイントになりますから。
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桂望実 光文社文庫 2013年5月20日発行(単行本は2010年12月、初出は「週刊宝石」2010年2月号~9月号)