伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

行政判例ノート[第4版]

2021-01-12 23:20:11 | 実用書・ビジネス書
 最高裁判例を中心に行政訴訟の判例を項目別に紹介し解説した本。
 行政判例を素材として行政法それ自体を学ぶ新しいタイプのテキストとして使われることも期待していることがはしがきに書かれています。行政訴訟の判例紹介で通常見られがちな行政訴訟特有の概念(通常の民事訴訟では見られない行政側に有利な入り口論)を後回しにして、実体法的な部分から入っているところは、新しい感じがしますし、そういう意味で入りやすいかなとは思いますが、行政法には基本法令もなく法体系ができているとも言えないため判例も必ずしも統一的でなく揺れていたりばらけていたりして、なかなか初学者には読み通したときになるほど感が持ちにくいと思います。
 最高裁が、行政訴訟については、かつての硬直した概念での門前払いを避けて柔軟な解釈を示す傾向があるということは、業界での近年の一般的な理解だと思いますが、それでもものによっては最近でも理念的な一刀両断の判決もあり、また大阪空港訴訟で国の敗訴を避けるために民事訴訟では飛行差し止めはできないという判決を書いてしまったことが今だに後を引きずって(原発や高速道路では民事訴訟での差し止めも可能とされるのに)飛行差し止めは民事裁判ではできず行政事件訴訟法の改正で設けられた要件がとても厳しい行政訴訟としての差し止めしかないという著者が「本判決の意義を論理的に説明するのは困難というほかはない」(144ページ)という事態に陥っているなどの状況がわかります。
 そういったことも含めて、行政事件に興味がある者には、最近の判例も含めて様々なものをおさらいできてお得感がある本のように思えます。私には大変興味深く読めました。


橋本博之 弘文堂 2020年11月15日発行(初版は2011年)
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