伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

レディ・ジョーカー 上・中・下

2021-01-05 22:48:02 | 小説
 就職差別で娘婿と孫を失った薬局主の老人の競馬仲間たちが、ビールメーカーのトップ日之出ビールの社長を誘拐し流通するビールを人質に恐喝を実行し、それを受けた日之出ビール内と社長の葛藤、捜査に当たる警察官、取材に走る新聞記者らの動きなどを描いた小説。
 犯罪小説としては、犯人側の設定や描写が今ひとつスリリングさに欠け、人間関係が「もし日本が100人の村だったら」くらいのそんな偶然あり得ないでしょうな設定なのが違和感を残しました。
 むしろ日之出ビール側の人間関係、企業の論理・動き、社長の心の動き等に力が入れられ、そちらの方が読みどころの企業小説という趣です。
 様々なテーマについて取材の跡が見られ、ディテールへのこだわりが感じられますが、なぜ1995年3月に設定したのかに疑問を持ちました。書かれた時点では、まだオウム真理教の一連の事件の記憶が生々しかったはずですが、あの時期ならば仮にトップ企業の社長が誘拐されてもそれが新聞の一面トップ扱いとなったでしょうか。社長が誘拐された翌朝の1995年3月25日未明の午前6時台に春の雪が降ったという設定になっています(上巻418ページ)が、気象庁のデータベースで見るとこの日の東京の午前6時の気温は9.9℃、もちろん降雪量は0です。「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」でルーピン先生が狼男に変身した日時を月が出ていない1994年6月6日午後11時過ぎとしてJ.K.ローリングが墓穴を掘った(そんなこと指摘してるのはお前くらいだって?ま、そうですけど)ように、そういうことは調べずに書くものなのでしょうか…


高村薫 新潮文庫 2010年4月1日発行(単行本は1997年12月)
毎日出版文化賞受賞作
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