伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

分断と凋落の日本

2023-06-06 21:15:46 | ノンフィクション
 元経産官僚にして、安倍政権批判で報道ステーションを降板させられた著者が、安倍政権以降の軍事と企業優先の政治、原発復活、人事政策による霞ヶ関支配とマスコミ対策等について論じた本。
 映画「妖怪の孫」はこの本が原案と明記されています(8ページ、著者プロフィール等)。「妖怪の孫」は2023年3月17日公開で、この本の出版が2023年4月12日。「妖怪の孫」は安倍政権、安倍晋三の言動に焦点を当てて過去を振り返るという色彩が強いのですが、この本では岸田現政権の様子も、安倍政権の過去に縛られていると言ってみたり安倍晋三よりも考えもなしに安倍超えをやっているなど、安倍政権との比較でですが、フォローしています。
 集団的自衛権行使は憲法第9条違反をいう政府見解を変えるために内閣法制局長官の首をすげ替えたことが衝撃的な事件であり、霞ヶ関官僚の目から見れば「時の総理大臣がルールを無視して『テロ』をやるんだと」と受け止められ霞ヶ関が大きく変わったことを生々しく論じ(36~39ページ)、「武器輸出3原則」を変更した中曽根政権でさえアメリカなどの同盟国への武器「技術」の輸出を国会で散々議論してようやく解禁したのに安倍政権では武器そのものの輸出を大きな議論もなく認めてしまった(39~41ページ)など、元官僚ならではの(著者は中曽根政権時代武器技術輸出担当課の係長だったとか)解説が光ります。
 原発復活でも経産省・原子力規制委員会のやり口がわかりやすく説明されています(78~114ページ)。原発完全復活プランに対して最高裁がそれを止める機能を果たせないという根拠には、樋口裁判官が経験した裁判官会同を挙げています(114~117ページ)が、ここでは最高裁裁判官15名全員が安倍政権以降に任命された(この本の出版時点で安倍政権8名、菅政権5名、岸田政権2名)ということも、「妖怪の孫」的な視点では挙げておいて欲しかったと思います。
 それらの政治的なテーマ以外に、著者が元経産官僚ということから、経済政策の問題、あまりにも企業優遇を続けたために日本企業がイノベーションの努力をせず取り残されて競争力がなくなりかつては強かった家電も半導体も壊滅状態でEV(電気自動車)も乗り遅れたなどの指摘が勉強になりました。


古賀茂明 日刊現代 2023年4月12日発行

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