伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

それでは釈放前教育を始めます! 10年間100回通い詰めた全国刑務所ワチャワチャ訪問記

2023-06-04 19:37:33 | ノンフィクション
 吉本興業に勤務していたことから刑務所の釈放前指導導入教育員をしていた著者が刑務所の実情等について書いた本。
 「はじめに」で書かれている著者が釈放前指導導入教育員であったということ、タイトルとサブタイトルから、著者が行った釈放前教育の内容、そこでの受刑者とのやりとりや釈放前教育を受けた受刑者のその後とかを経験に基づいて書いているものと期待して読んだのですが、著者が行った釈放前教育に関する話は第2章の前半と第4章の最後、本全体でいえばせいぜい4分の1くらいで、釈放前教育を受けた受刑者のその後なんて話はまるでありません(先生の話を聞いてよかった、釈放後の生活や更生に役立ったなんて連絡してきた受刑者は皆無ってことでしょうか。10年かけて100回も通ったというのに)。
 残りの、この本の大半を占めるのは、法務省矯正局の広報かと思うような、刑務所は受刑者のために至れり尽くせりをしてよくやっているという話です。刑務所に批判的な記載はまったくと言ってよいほどありません。大阪弁護士会が大阪刑務所で受刑者に販売される日用品の価格はティッシュペーパーが市価の約4.5倍など高すぎると申し入れたことを報じた朝日新聞記事について、高額だという事実は否定できないのでしょう、「確かに、もらえる報奨金から見ると、最低限必要な物は格安に提供できたらいいのでしょうが、色々と都合もあると思います。刑務所というところでの物や人の出入りは管理面から見ても簡単ではありません」と刑務所側を擁護する姿勢を示しています(202~203ページ)。
 著者は、受刑者の処遇(前述のようにいいことばかり)に言及しては、税金で賄われていると指摘するなど、この本全体を通じて、刑務所の管理者側と一体になった上から目線の姿勢が顕著です。釈放前教育の「授業」で著者が100万円あげたら何に使うかという質問をしたのに対して、「実は兄弟が7人いるのですが、みんなで東京ディズニーランドとディズニーシーに泊まりがけで行きたいです」と答えた受刑者に兄弟はいないと後で刑務官に聞かされて、著者は開いた口が塞がらないとはこのこととか「嘘撲滅」こそ教育における最大級の優先取り組み事項ではないでしょうかなどと5ページ近くもかけて文句を言っています(133~137ページ)。著者の言う釈放前教育で重要な「コミュニケーション力」って何なのでしょう。お笑い芸人の技術・芸の重要部分はうまく嘘をつくことではないのでしょうか。著者自身、釈放前教育では「100万円を用意しました。24時間以内に使うとしたら、どう使いますか?貯金はダメですよ。ボクが納得する使い方なら差し上げます」と質問しているといいます(107ページ)。それは嘘じゃないんですか? そういう嘘から始める会話を盛り上げようと受刑者が害のない嘘を言ったら、それは許されない、けしからんということになるんですか。私には、そういう著者の姿勢が鼻につく本でした。


竹中功 株式会社KADOKAWA 2023年3月23日発行

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 世界は「 」を秘めている | トップ | 被災した楽園 2004年イ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ノンフィクション」カテゴリの最新記事