伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

B-29の昭和史 爆撃機と空襲をめぐる日本の近現代

2023-08-06 20:54:55 | ノンフィクション
 第2次世界大戦時に日本各地で行われた空襲/戦略爆撃と広島・長崎への原爆投下に用いられた戦略爆撃機B-29について、その開発と利用、日本側の持つイメージ等について記述した本。
 戦略爆撃については、1848年の気球からの爆撃から説き起こし、起源についてはまぎれますが、日本の中国での戦略爆撃が当時の日本においても知られ「暴支膺懲」などと正当化されていた様子が述べられ、戦後において朝鮮戦争で日本の基地から飛び立つB-29の空襲を日本の新聞が傍観者的に報じる様子までが書かれることで、空襲の被害者という視点に偏ったスタンスを戒めています。
 著者は、技術的な面よりも、人々がB-29に対して持つイメージの方にこだわり、B-29が美しかったという意見に最後までこだわっています。人々がB-29を美しいという背景には圧倒的な力を前に敗北した劣等感があると言い、「流体力学的に洗練され美的にも機能面においても優れた造形物が、政治的に、また軍事的にも圧倒的な力関係を背景として、破壊や殺傷といった倫理上の理想とはまったく正反対の目的で量産され使用されたという、恐ろしい現実」を前に、それを単に機能美として称揚することには、政治的にも倫理的にも、ためらいを覚えずにはいられないという著者の姿勢(309ページ)は、実にまっとうなものに思えます。ジブリアニメの「火垂るの墓」について論じながら(275ページ~)、B-29を美しいと言うこと、爆撃機の「機能美」を賞賛することに批判的な意見を持つ(それでこの本をまとめている)著者が、「美しいフォルムを追求した」戦闘機設計技師を讃えるジブリアニメ「風立ちぬ」にまったく触れないことの真意は見えませんけれども。


若林宣 ちくま新書 2023年6月10日発行

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