伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

がんと一緒に働こう! 必携CSRハンドブック

2010-07-03 01:03:42 | 人文・社会科学系
 がんになっても働き続けるための知識とノウハウを説明した本。
 知識としての働く権利、会社との関係の持ち方、働き方、保険や社会保障、グッズや生活のノウハウなどから構成され、がん経験者が自らの経験等を書いています。
 働く権利のところは、基礎知識で抽象的ですが、まぁこんなところ。労働組合加入者の労働条件は労働協約で定められる(11ページ)っていうのは就業規則と異なる労働協約があれば(協約がないことが多い)ですし、配置転換についての書きぶり(15~16ページ)は、現実はもっと厳しいように思えます(そう書きたい気持ちはわかります)が。会社との関係は、結局、上司や主治医、産業医とよく相談してということに終始しています。
 私には、社会保険関係と、ワーキンググッズや生活の工夫のあたりが一番興味深く読めました。ただ、グッズの使い方とか、今ひとつイメージしにくいのでそういうところをイラストでわかりやすくした方がいいと思います。ギャグマンガ風の4コマよりも。
 CSRは、Cancer Survivors Recruitingの略。もちろん、Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)とかけてあるわけですが。がん経験者の雇用を維持することも企業の社会的責任という主張をこめたものと思いますが、その雄々しい編者名のわりに本の内容は控えめで、制度的提案は治療休暇制度と雇用促進条例くらい(159ページ)。
 今後の動きにちょっと注目したいなと思います。


CSRプロジェクト編 合同出版 2010年5月1日発行
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公証人が書いたトラブルにならない相続

2010-07-02 21:58:54 | 実用書・ビジネス書
 元公証人(現在弁護士)が書いた、遺言作成、遺言執行、遺産分割等についての解説書。
 実務的な観点から整理されていて、弁護士の目からは、遺言や遺産分割の入門書として読みやすく書かれています。
 「はじめに」では「遺言や相続の話をすると、難解な法律用語がどうしても出てきてしまいます。本書は、一般の読者にも十分理解できるようにできるだけやさしく表現し、簡潔に解説するように努めました」と一般人向けを強調しています。新聞に連載したものですから、もちろん、そういう配慮はなされているのだとは思います。しかし、法律業界関係者が書く本の大半にはそういう前書きがありながら、安全のために法律(や判決)の文言通りの記載がなされています。この本でも、やはり基本的には法律用語がそのまま使われていて、各章のはじめでその後のQ&Aを整理している部分も弁護士の目には読みやすいものの、一般人の読者にはこの段階で挫折する人も少なくないような感じがします。
 内容的には、さすが元公証人という感じの学者や弁護士が見落としがちな指摘がいくつか見られ、参考になる本だと思うのですが。


北野俊光 日本経済新聞出版社 2010年5月21日発行
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俺たち訴えられました! SLAPP裁判との闘い

2010-07-02 17:41:45 | ノンフィクション
 月刊誌「サイゾー」でのコメントを名誉毀損としてオリコンから5000万円の損害賠償請求訴訟を起こされたジャーナリストと「週刊現代」での連載記事「テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実」でJR東労組組合員らから50件の損害賠償請求訴訟を全国各地で起こされたジャーナリストが、互いの裁判についてインタビューしあいながら、公的言論を標的とした組織的な訴訟(SLAPP裁判)について問題提起する本。
 記事について出版社を訴えるのではなく記事のごく一部のコメントを標的にコメント提供者だけ相手にして5000万円もの請求をするオリコンは常軌を逸していると思いますし、記事で書かれてさえいない組合員が全国各地で訴えるのもかなり異常。その意味でこれらの裁判が言論への威嚇・報復目的で行われたものだという主張はよくわかりますし、裁判の経緯についても興味深く読ませてもらいました。
 著者2人のスタンスにも違いがあり、訴えられるのは覚悟の上だし書かれた者は訴える権利があるという姿勢の西岡氏の主張がむしろ相手の不当性を浮き彫りにして説得力があるのに対し、オリコン批判のみならず判決批判、弁護団批判を繰り返す烏賀陽氏の主張は、この本で読んでも私には今ひとつストンと落ちませんでした。
 出版社を訴えなかったから被告として不適格だから却下すべきだった(154ページ)はまるで無理な主張だし、オリコンが「サイゾー」のコメントと「AERA」の記事を一連の不法行為と主張しているから「サイゾー」のコメントだけで不法行為になると判断するのは弁論主義違反(当事者の主張しない事実に基づく判決)(139ページ)というのも弁護士の感覚としては違和感があります。サイゾーのコメントについても主張はされているのなら、その評価は単独でも弁論主義違反とは言えないと思います。弁護団批判としてサイゾーの記者からのメールを証拠提出しなかったことを弁護過誤と言っている(114ページ等)のは、現実の事実関係はわかりませんから断言しませんが、弁護団がそのメールを出すとサイゾー編集部との間で原稿のやりとりをしていた証拠として使われてしまうと言った(114ページ)のは、143ページで引用されている1審判決の「自己のコメント内容がそのままの形で記事として掲載される可能性が高いことを予測しこれを容認しながらあえて当該出版社に対しコメントを提供した場合は」コメント提供者にも責任があるという判断を読めていた(この判旨が妥当かどうかは別として)とも見ることができます。メールの内容とか、ほかの証拠も見ないと、簡単には言えないと思いますが。そのあたり、この本の問題提起の中心をなすSLAPP裁判への問題意識を強調する烏賀陽氏の主張が上滑りに感じられることが、問題提起の価値をやや減殺しているように思えて、残念でした。
 マスメディア側の主張に偏ることへのバランスを取って名誉毀損の原告側の弁護士へのインタビューを入れたのは、フェアな姿勢で好感が持てますが、そこでこの本の問題提起のSLAPP裁判について議論していないのは、ちょっと腰砕けの感があります。
 マスコミ関係者にありがちですが、自分が民事裁判を長らくやりながら未だに民事裁判で被告人とか弁護人とか(いずれも刑事裁判の用語)書いているのも、ちょっとなぁ。日本の民事裁判は弁護士費用そのほか「法廷外で発生するコスト」を一切考慮しないっていう指摘(200ページ)も、もし弁護士費用敗訴者負担だったら、自分が1審でオリコン側の弁護士費用も負担させられたはずということも考慮していないし、弁護士費用敗訴者負担が弱者は裁判を起こせない方に働くということへの配慮も全然感じられず、思いつき的な感じ。
 そういう残念なところが少なからずありますが、問題提起と現実の問題事例の紹介として貴重な本だと思いました。


烏賀陽弘道、西岡研介 河出書房新社 2010年3月30日発行
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ラブ・ストーリーを探しに

2010-07-01 19:29:14 | 小説
 ニューヨーク州ウッドストックに住む恋愛小説作家が周囲の住民との間での出来事や思い、聞いた話から描いたエッセイ風の恋愛短編連作小説。
 1969年に開催された伝説のロックコンサートと花と森と嵐と雪に彩られるウッドストックの風土を反映して月ごとにトピックを採った(それは月刊の連載のためではありましょうが)短編が美しい街角のカラー写真の装丁で飾られた小じゃれた本です。
 読み物としてはダイナミックな展開や感動とかは期待できませんが、読み終えてほっとするというか少し心温まるというタイプの本です。
 恋愛小説作家を語り手として何度か同じエピソードが登場していますが、「彼はキャンプや野宿が大好きだけれど、私は大嫌い。テントや車の中で寝るなんて、とうてい無理」(158ページ)で、それも離婚の原因となっている「私」が、学生の頃恋人と貧乏旅行を重ね「旅先でお金が底をついてくると、河で水浴びをしたあと、海辺に粗末なテントを張って、星の数を数えながら、眠った」(47~48ページ)ことを嬉々として書いているのは、調整不足?
 日本で知り合ったアメリカ人男性と結婚してウッドストックに在住する恋愛小説作家という設定は、作者自身を、当然にイメージさせますが、3年で離婚(87~88ページ等)とか、東京郊外の生まれ(85ページ)とかは作者の経歴と違っていて、ノンフィクションのようなフィクションのようなそういう曖昧な形で書いています。そこは、ご想像にお任せします、というような。でもそういうスタンスで、年を13もサバを読むのは、ちょっと奥ゆかしさに欠けるかなと思います。


小手鞠るい 角川学芸出版 2010年4月15日発行
角川学芸WEBマガジン第23~34号連載
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