伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

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2010-09-18 17:51:02 | 小説
 担当編集者との間でW不倫を繰り広げ大げんかの末に別れたばかりの女性作家が、数十年前に大作家が自らの不倫が妻に発覚して妻と愛人の板挟みとなる様子を書いた私小説の名作「無垢人」の匿名の愛人の謎を取材して小説化するというストーリーで作家の創作と恋愛、小説における事実と虚像などを論じる小説。
 作家と編集者のW不倫の顛末、「無垢人」の関係者への取材、架空の小説「無垢人」の内容(展開)という3つが順次進行していきますが、どの話も作家が主体だったり議論のテーマだったりで、全体としては作家とは、小説を生み出す苦しみはというような内輪話めいた感じがします。作家が他の作家の創作の過程を検討し追求していくというのは、弁護士が他の弁護士の弁護過誤を調査することと似て・・・と考えると重苦しいですね。
 そういうことに興味は持てますが、同時にそれをまた小説のネタにしてしまうのは、ネタ詰まりなのかなぁと感じてしまいます。


桐野夏生 集英社 2009年5月30日発行
「小説すばる」2006年11月号~2008年5月号連載
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刑事魂

2010-09-18 17:47:49 | ノンフィクション
 警視庁の元警察官が経験した事件の捜査や思いを綴った本。
 死体や現場の状況で事件性を判断する際に教科書的な知識で対応できない例が紹介されていて参考になりました。車の運転席で死亡している人を朝に警察官が見たときには顔面蒼白で首に絞められた跡もなかったのに、観察医務院の医師が到着したのが夕方で監察医は顔面が鬱血していて首に絞められた跡があるので殺しの可能性があるという(56~58ページ)。それがネクタイをしたまま時間が経ったために絞められた跡が付き鬱血したとか。嬰児の腹に死斑があるので本当はうつ伏せで死んだと疑ったが解剖の結果はそうではなかったとか(65ページ)。
 昔は取調の間は被疑者も自由にたばこが吸えたのでヤクザなどは素直に取調に応じていたとか、余罪を自白したらカツ丼をごちそうしていた(183ページ)という実情もあっさり書かれてたり、自分が取り調べた女が今は妻だ(179~180ページ)なんて危ない話も出ています。
 警察に逮捕されたことのない人間は刑事の尾行に気付いているようでも気付いていない(151ページ)とか、高級国産車の合い鍵も現場で10分で作れる(96~97ページ)とか、風呂屋の番台に座っていると女の裸を見ても何ともなくなるがたまに絵から抜け出たような美人が来て気になって洗い場の方を覗いてしまうと決まって覗いた瞬間に番台を振り返る、「女は背中に目を持っている」(113~114ページ)とか・・・気をつけておきましょう。


萩生田勝 ちくま新書 2010年4月10日発行
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ハリウッドスターと謎のライバル

2010-09-11 01:37:10 | 小説
 「転校生はハリウッドスター」に始まるシリーズの第3巻。
 主人公のケイトリン・バークが子ども時代から出演してきた人気テレビドラマ「ファミリー・アフェアー」の13シーズン目の撮影が始まるが、新展開のために入れた新人女優アレクシスにマスコミの注目が集まり、ケイトリンの双子の姉妹役のスカイは危機感を募らせ、ケイトリンも不安を募らせる中、アレクシスは人気を背景に出演シーンの増加を要求し脚本も変更されていき、ゴシップ誌にはケイトリンやスカイの悪評が出回り・・・という展開です。
 目的のためには手段を選ばず脚本家には色仕掛けをしライバルを陥れながら、有力者の前ではブリッ子して男性陣には評判がいいという典型的に同性には嫌われるタイプの悪役を登場させ、それに対抗するためにそれまで天敵だったスカイとも手を組み、ピンチにも立ち向かい対処していくという流れで、17歳になるケイトリンの心の動きと成長を描いています。男受けのする悪役って女性の作者からはアピールしたくなるんだろうなという気はしますが、アレクシスの絵に描いたような悪役ぶりに、素直にケイトリンの気持ちに入っていけるしくみになっていて、そこは巧みかなと思います。


原題:Secrets of My Hollywood Life : Family Affairs
ジェン・キャロニタ 訳:灰島かり、松村紗耶
小学館 2010年7月4日発行 (原書は2008年)
1巻は2010年1月23日の記事で、2巻は2010年1月24日の記事で紹介しています。
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ワールド・イズ・ブルー

2010-09-06 22:30:35 | ノンフィクション
 地球の生命維持システムの中枢を占める海が人間の行為によってわずかの期間に破壊されてきたことを指摘し、海洋保護を訴える本。
 大気中の酸素の約70%は海中の光合成微生物が生成し(71ページ)、海は大気から大量の二酸化炭素を吸収し気候を左右し気温を調整し地球の水の97%を保持している。この50年あまりのうちにその海に何億トンもの廃棄物が捨てられ、大型魚類の90%が捕獲され、珊瑚礁の半分が消失し、海の酸性化が進んでいる。かつて人間の力では影響を及ぼすことができない(自然に復元する)と考えられてきた海のシステムがわずかの期間に息をのむほどのスピードで破壊されているというのが著者の主張です。
 著者の姿勢は、捕鯨やクロマグロ等の捕獲に反対していますが、動物愛護的な視点では必ずしもなく、「賢い水産養殖」(植物食の短期間で成長するという条件の養殖向きの種を選んだ養殖)を推奨し、自らの調査研究の過程でも石油資本や政府やGoogleと組んだり清濁併せ呑むというか柔軟な姿勢を取っています。環境運動家として見た場合の純粋さには欠ける感じがしますが、むしろそういうしたたかさが、運動としてみても強さと広がりを感じさせます。
 一方で、クロマグロを食べるよりもマグロが尾びれを振ったときにできる小さな渦からできるエネルギーの97%が推進力に変えられているという仕組みを解明する方がよほど価値があるというような主張(85ページ)に見られるような、いかにも学者的な論理がどれくらい共感を得られるかは心許ないところです。もっとも私は、運動や調査でのしたたかさと学者的な興味のこういうアンバランスさにも、著者の魅力を感じてしまうのですが。


原題:The world is blue : how our fate and the ocean’s are one
シルビア・A・アール 訳:古賀祥子
日経ナショナルジオグラフィック社 2010年7月26日発行 (原書は2009年)
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タラ・ダンカン7 幽霊たちの野望 上下

2010-09-04 20:06:56 | 物語・ファンタジー・SF
 魔術が支配する「別世界」の人間の国「オモワ帝国」の世継ぎの15歳の少女タラ・ダンカンが、様々な敵対勢力の陰謀や事件に巻き込まれながら冒険するファンタジー。作者が10巻まで書くと宣言しているシリーズの第7巻。
 第7巻では、第6巻で出てきた奴隷制との闘いは跡形もなく、「別世界」が幽霊に乗っ取られるというこれまでの流れと別の展開で1巻分エピソードを稼いでいるという感じです。しかし、その中で、謎の青年シルヴェールという魅力的なキャラを登場させて今後の話の幅を持たせ、タラの母のセレナと死んだ父ダンヴィウの過去を明らかにして読者のニーズにはうまく応えていますし、話の展開も読み切り1話分としてみても悪くない水準だと思います。
 ダンヴィウの幽霊を登場させてマジスター(の幽霊)と口論させる過程で、これまで明かされなかったダンヴィウがマジスターに殺されたいきさつも明らかにされています(下巻277~278ページ)。マジスターがダンヴィウを殺した理由は、公式サイトのFAQやそれを訳した別世界通信(4巻上の付録)では最終巻で明かされると予告されていたのですが。
 ところで、敵のマジスターをはじめ有力な男性キャラはセレナにぞっこんという設定ですが、3人の子持ちのアラフォー女性が突出してモテるのはフランスの文化的風土のためでしょうか。そのあたりもちょっと興味深い。


原題:TARA DUNCAN ET L’INVASION FANTOME
ソフィー・オドゥワン=マミコニアン 訳:山本知子、加藤かおり
メディアファクトリー 2010年8月6日発行 (原書は2009年)

6巻は2009年10月6日の記事で紹介しています。
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男子って犬みたい!

2010-09-03 23:35:46 | 小説
 母親が新しいボーイフレンドと同居するために引っ越して女子校から共学の学校に転校することになった11歳の少女アナベルが、隣人のレイチェルら新しい友人とは楽しくつきあいながら、レイチェルの兄のジャクソンをはじめとする意地悪でやんちゃな男子たちに悩まされ、悪ガキをおとなしくさせる方法は犬のしつけと同じと思いつき、新居で飼う犬への対応を試しながら男子との関係を試行錯誤する青春小説。
 毅然とした態度ではっきり要求し、どちらがボスか態度で知らせるって。うーん、大人になってみると、小学生の男子って、まぁ犬というか小猿みたいなもんだからそうもいえますが。でも子どもの頃は子どもなりに考えが、なかったかなぁ。
 エンディングはほんの数ページでそれまでの路線を離れて、当たって砕けろ的な、自然体風な、青春ものらしい対応に行くのですが、なんかある意味自己啓発セミナーっぽいともいえるし、自己啓発セミナーやマニュアルへのアンチテーゼっぽくも読めるしという展開。さらっとしていいとも感じられますが、もう少し書き込んで欲しかったようにも思えます。


原題:boys are dogs
レスリー・マーゴリス 訳:代田亜香子
PHP研究所 2010年8月3日発行 (原書は2008年)
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