伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

マタニティ・グレイ

2014-01-06 21:38:26 | 小説
 フリーランスのカメラマンの夫一斗と結婚4年になる32歳の雑誌編集者二宮千花子(戸籍姓高部)が妊娠して産む決意をし、産休育休の前例もない勤務先と交渉し、切迫流産での入院中に仕事のいいとこ取りをもくろむ後輩編集者との確執や総務部への異動を勧める上司への説得を経て、編集者としての仕事を続けようとするという展開の小説。
 妊娠から助産院での自然分娩までのありがちなことが一通り出て来て、若い人にはたぶん参考になり、経験者には懐かしい思いがするかと思います。
 妊娠中の性欲やセックスの話が度々登場します。「妊娠初期のセックスについては、日本だとひと言『控えましょう』でおしまい。外国のは『とくに過激なことをしなければ、通常どおり行ってかまいません』って書いてあるもんな」「愛する者同士でする場合でも、日本ではセックスってなにかいけないことなんだよね。家族だったり、子どもだったり、社会も大切だけど、夫婦とか恋人同士のつながりは、軽く見られてる。妊娠本もね、日本ではなによりも赤ちゃん中心で書いてあるでしょう。でも、外国のは夫婦が中心なんだ」(81~82ページ)、「妊娠出産本を読むと、妊婦の欲望はさまざまなようだ。まったく性欲がなくなる人もいれば、逆に高まってしかたないという人もいる。中には妊娠中に初めてオーガズムを得る女性もいるらしい」(175ページ)とか。「二十代の終わりのころから、なぜかセックス自体がすごくよくなっていた。よく男女の肉体的な相性について人は口にするけれど、それよりももっと大切なことがあるのではないかと、自分の経験から考えるようになった。好きな人とたくさんする、それも長い年月をかけて、すこしずつおたがいの身体について理解していく。出会い頭の相性などより、そちらの方がずっと重要なのではないだろうか。相性は愛情と努力で改善するのだ」(192~193ページ)というのは、読んでいて温かな気持ちになります。素直に夫婦が愛情を温める小説って意外にないからかなとも思いますが。


石田衣良 角川書店 2013年2月28日発行
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輝天炎上

2014-01-01 19:34:36 | 小説
 宝島社のサイトで「『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した、ベストセラー『チーム・バチスタの栄光』から続く、田口&白鳥シリーズ最終巻!大人気メディカル・エンターテインメント、いよいよ完結です!」と、シリーズ最終巻と宣言された「ケルベロスの肖像」を、落第医学生天馬大吉、桜宮一族・桜宮市警陰謀グループの側から解説する、いわば「ケルベロスの肖像」の謎解き編。
 「ケルベロスの肖像」を読んで残されていた謎が解かれますが、ミステリー小説が多数の謎というか腑に落ちないところを残して終了し、その謎を別の出版社から発売する別のシリーズで解説するというやり方は反則じゃないかと思います。その本の中で解説しきってこそミステリーじゃないでしょうか。シリーズも出版社も関係ない、海堂ワールド・桜宮サーガ全体で見るべきということかもしれませんが、私はちょっとついていけないなぁと思います。
 「ケルベロスの肖像」と同じ話ですから、同じような感想を持ちますが、全体の構図というか犯行の骨格部分が大がかり・大仰に過ぎ、そこまで手を掛け巨額の金を動かしてやるかなぁという思いを強く持ち、荒唐無稽さを感じてしまいます。「螺鈿迷宮」の続編ともなりますので、大部分の場面で怠惰で受動的で優柔不断でありながら、他人への批判的意識だけは先鋭で衒学趣味的で自意識過剰な医学生天馬大吉が主人公・語り手となっていて、この語り手への違和感から私は物語に入りにくく思いました。
 「ケルベロスの肖像」とまったく同じ場面が天馬大吉、桜宮小百合側から再現され、主として「ケルベロスの肖像」で不思議に思い腑に落ちなかった点の解明の興味で読み続けましたが、前半は同じ場面の会話はほぼ同じに再現されているのに、後半になると同じ場面なのに会話が少し変わったりして(例えば「ケルベロスの肖像」34ページでは「つまり燃えさかる炎の中でI先生は、桜宮の次期当主としてS2さんを指名したんですね」という姫宮の意向により登場人物をイニシャルで話すと明示された会話なのに、「輝天炎上」247ページではそれを盗聴している側に聞こえる会話が「つまり巌雄先生は、桜宮の次期当主としてすみれさんを選んだんですね」とイニシャルトークではなくなった上で言葉が変わっているなど)雑な印象を受けました。栞を2本付けている角川書店のサービスは、同じ場面を振り返って読めるようにという配慮でしょうか。でもそうだとすると、この本の中での同じ場面でさえ会話が少し変わってたりする(例えば242~243ページの茉莉亜の言葉「あら……お久しぶりね」「あなたの行く手を阻むのは、すみれちゃんよ。気をつけてね」が、それを盗聴している284ページでは「誰かと思ったら……お久しぶりね」「あなたの行く手を阻むのは、すみれちゃんよ。気をつけなさい」と、微妙に変わるなど)のが目に付いてしまうのですが。
 「ケルベロスの肖像」の感想で桜宮市警の警官たちの挙動を理解できないと書きましたが、海堂ワールドでは市警はAi導入に反対する陰謀グループという位置づけなのですから、そういうことを疑問に思うこと自体が、私が海堂ワールドを理解していない証拠なのだと、よく理解できました。この作品では「ミスをごまかしたい下司な医療者と医療事故裁判でも受けたい弁護士、メディアに巣食うパラサイト評論家たちがよってたかって同調し、Aiセンターというシンボルタワーを打ち倒そうとする。これが現在の構図よ」(319ページ)と、弁護士も作者の年来の主張のAi(死亡時画像診断)導入への敵と位置づけられています。私は医療過誤事件はやってませんけど、作者の悲壮な立て籠もり感が強くなりすぎているような気がします。


海堂尊 角川書店 2013年1月31日発行
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