伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

誤解だらけの日本美術 デジタル復元が解き明かす「わびさび」

2016-06-02 22:54:11 | 人文・社会科学系
 美術品の復元を仕事とする著者が、復元を試みる中での経験から、現時点の退色した美術品をガラス越しに遠巻きに見るのでは美術品本来の魅力を味わえないとして、制作当時の色彩や鑑賞の実情を、想像しつつ語った本。
 俵屋宗達の風神雷神図をめぐって、制作当時の色彩はど派手だったはず(まぁ、金屏風に書かれてるんですから、考えてみればそりゃそうでしょう)とか、雷神の太鼓の環の画面からのはみ出しが鑑賞者の想像を膨らませるとか、雷神と風神の視線の関係から壁面ではなく屏風として立体的に置いて初めて意図がわかるとか、様々な発見のある第1章が、著者の力も入っており、読みどころです。
 あとは阿修羅への愛着が感じられる第4章でしょうか。「はじめに」で「つまり、阿修羅は綾波レイなのである。」(7ページ)と語った著者(1966年生まれ)の思いは、阿修羅の第4章にはあまり表れていないようにも思えましたが。1960年生まれの私は、「山口百恵は菩薩である」と言われて育ちましたが、6年の違いでこの文化の差は…


小林泰三 光文社新書 2015年9月20日発行
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水鏡推理

2016-06-01 00:12:02 | 小説
 阪神・淡路大震災で被災して祖母と弟が行方不明のままの文科省一般職職員水鏡瑞希が、文科省の「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」に配属され、研究者、学界の重鎮、上司、同僚の総合職職員らの圧力に抗して、探偵事務所で培った推理力を駆使して、研究費獲得のための不正実験デモや不正研究を暴いていくミステリー小説。
 国の研究費にたかる研究者と事業者、それらと癒着した官僚の不正を、職場で虐げられている一般職公務員が暴いていくという展開は、読み応えがあり、また爽快感があります。
 しかし、水鏡瑞希が、最初に不正を暴く対象が、原発廃絶論者が神格化する抵抗運動家で、清貧のはずが災害見舞金に加えて寄付金で潤いロレックスの時計も隠していたなどというスキャンダルであり、文科省予算の研究費の不正をあげつらいながら、原子力関係の研究は何一つリストアップされないという作者の姿勢は、異様です。福島原発事故後、現代社会を扱う書き手は、一種の踏み絵を踏まされているという面はありますが、ここまではっきりと、原子力事業を援護する姿勢を見せられると、不正をただすなどと言われても、興ざめしてしまいます。


松岡圭祐 講談社 2015年10月8日発行
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