伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

自治体職員のためのLGBTQ理解増進法逐条解説ハンドブック

2024-04-07 20:59:17 | 実用書・ビジネス書
 LGBTQ理解増進法について、制定の経緯や立法時の国会での答弁等を紹介し、各条文の趣旨を解説した本。
 著者はこの法律自体については「特定の政党のアドバイザーを務めたり、講師として勉強会に参加したりということも行ってきていないため、入手資料は、誰もが入手できる公開資料を基にしている」としつつ、「審議中継において公開されている審議経過をすべて視聴し、筆記起こしを行うなどして、文字通り手間と労力をかけて執筆したものである」(序説:1ページ)ととても力の入った前振りをしています。文教区男女平等参画推進条例が先進的に規定した性的指向または性的自認に起因する差別的取扱の禁止に関して著者が立案担当者として「全身全霊をかけて」制定した(219ページ)という思いがにじみ出ているということでしょう。
 ただ一読者としては、「自治体職員のための」と銘打ち、「筆者のもとには、現在、多くの自治体担当者から相談がひっきりなしに来る」(215ページ)というのであれば、この法律を受けて自治体が何をすべきかについてより踏み込んだ解説が欲しいと感じました。第5条の施策の策定、実施では何をすべきか、特に第10条でより具体的に挙げられている教育及び学習の振興、広報活動、相談体制の整備はどうすればいいのかなど、まさしく自治体職員として取り組んできた立場からのイメージや説明があった方がよかったと思います。
 本筋の法律の逐条解説は、法律自体が理念を定めるものだから仕方ないとはいえ、抽象的である種ありきたりのもので、むしろ資料編の困難のリスト(116~131ページ)と条例の紹介(131~146ページ)が一番読みでがあるように思えました。


鈴木秀洋 第一法規 2023年12月25日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

双極症と診断されたとき読む本 正しい理解と寛解へのヒント

2024-04-04 23:36:38 | 実用書・ビジネス書
 双極症(双極性障害)の病像、他の精神疾患との異同、治療等について解説した本。
 双極症( bipolar disorder )は、従来「双極性障害」と訳されていたが、「障害」というと治らないハンディキャップという誤解や偏見を与えることが危惧され、DSM-5-TR(2022年)から「双極症」と訳すことにしたのだそうです(24ページ、32ページ)。休職からの復職に関する裁判で、双極性障害は完治しないものだとして復職(治癒)に消極的な判断を示す判決もありますので、労働者側の弁護士の目からも、そういった偏見をなくしてゆくことが必要だと思います。
 他の精神疾患との鑑別について42ページ~49ページにかけて説明されていますが、似たような症状が見られ専門家でもなかなか難しいのですね。「心療内科は、本来は精神的な不調を伴う身体疾患を中心に診る内科医が担当するもの。双極症の場合、日本精神神経学会が認定する『精神科専門医』、厚生労働省が指定する『精神保健指定医』のいる医療機関へ」(20ページ)というのは、そうなんでしょうけど、縄張り争いみたいに感じますが…


加藤忠史監修 大和出版 2024年2月29日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

弁護士の格差

2024-04-03 19:40:56 | 実用書・ビジネス書
 弁護士数を増やした司法制度改革の結果生じている弁護士の経済格差、意識格差等について論じた本。
 プロローグの小見出しや表紙見返しには、他に「スキル格差」という文字も見られますが、そこはほとんど書けていない感じで、そこに期待すると羊頭狗肉感があります。
 「費用格差」、もちろんあると思いますし、弁護士会の法律相談センター経由の受任事件の報酬審査や苦情窓口を担当している(やらされている)と、私の感覚よりはずいぶんと違う報酬観を持つ弁護士が少なからずいるとは思っています。しかし、不倫慰謝料500万円を請求され訴訟になった場合の弁護士費用が、「街弁」約80万円~130万円、「新興法律事務所」最低50万円~最大130万円、「格安弁」60万円+実費+消費税(68~71ページ)っていうのはどうなんでしょう。著者は88人の弁護士に取材したと何度も書いていますが、これが代表例なんでしょうか。
 「依頼者感情を考慮し『とことん事件につき合う』弁護士が増えてきたという。事件につき合えば、その分『弁護士報酬が増える』(30代若手弁護士)からだ」(170ページ)というのも同じです。そういう弁護士が現に増えているのか、取材相手が偏っているのか…
 元裁判官の弁護士が国選弁護事件について「自分が引き起こした事件で弁護士も雇わず、国民の血税で弁護士をつけているとなると、これはどうしても心証はよくないですよね」と言っている(107~108ページ)というのも驚きです。裁判官一般がこう考えているのではないでしょうけれども、取材にこういう答をしている人がいるわけですから。


秋山謙一郎 朝日新書 2018年1月30日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

耳は悩んでいる

2024-04-02 21:42:25 | 実用書・ビジネス書
 耳のしくみや病気について解説した本。
 医師が書いた本ということで、一番の印象は、耳の病気ってそんなにたくさんあるのかというところ。分担執筆ということで、一応は気にしているようではありますが、重複が多いという印象でした。
 耳の炎症について、耳掃除のしすぎということが繰り返し書かれ、「耳のかゆみを予防する」の項目に至っては、「『耳掃除をしすぎないで』。まずは、このことに尽きる」(196ページ)とまで書いています。私も気になって耳掃除をしすぎて炎症を起こし耳だれが出て…ということをよくやります。で、「耳のかかりつけ医では、耳掃除の仕方、(中略)などいろいろな相談ができます」(209ページ)とも書かれているのですが、耳の専門家が多数で執筆しているのに、その耳掃除の仕方について説明したところがないというのはどうしたものか。


小島博己編 岩波新書 2023年12月20日発行

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

加害者側弁護士、損保社員、事故担当者のための交通事故損害賠償入門

2024-04-01 20:11:02 | 実用書・ビジネス書
 交通事故の損害賠償について、加害者側の弁護士と損害保険会社の側からの実務を解説した本。
 基本的に損保の視点で、いかに払いすぎを避けるかに力点が置かれたものですが、調査資料の入手や着目点などは、被害者側でも参考になるものと思えます(私が交通事故の事件ほとんどやってないので知らないだけかも知れませんけど)。
 自由診療で高額の請求をする医療機関やマッサージ・消炎鎮痛処置、整骨院に対する批判(17~25ページ、96~101ページ)が生々しくて驚きます。高額でも全部保険から支払われると思ってそういった治療・施術を安易に受けていると、裁判等では必要性や相当性が認められずに保険金が出ず、既払い分が休業損害や慰謝料などに充てられることになって結局被害者が受け取る損害賠償が予想外に減額されることになりかねないという点では、損保会社側の嘆き・恨み節に留まらず被害者側でも気をつけるべきことになりますが。
 妻だというだけで家事従事者と認められ、また祖母が同居する子ども夫婦が共働きだというだけで家事従事者と認められてそれに対応する休業損害(賃金センサス相当)が認められることに不満を述べ、「裁判所の家事従事者の認定においては今日も歴然とした男女差があり、『女性は家事労働をしている』という擬制の下に実務が展開されているとさえ感じることがある」と非難しています(111ページ)。子の親権で妻が圧勝する家裁の実務と通じるところもありますが、著者は別に男性にも家事従事者性を認めろということでは決してなく、損保の支払を減らしたいだけなのに、それを何か両性の平等をいうような口ぶりでいうのはいかがなものかと思います。


松浦裕介、岩本結衣 ぎょうせい 2023年12月30日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする