ことわざの中には、正反対の意味のものが多い。
「瓜の蔓に茄子(なすび)はならぬ」
血は争えないからなあ、と思うと
「鳶(とんび)が鷹を産む」
突然変異ということもあるからな。
「渡る世間に鬼はなし」
世の中には親切な人もいて、何とかなっていくものだよな、と人を信じる気になると
「人を見たら泥棒と思え」
と、人を信じてはいけないと教える。
「栴檀(せんだん)は双葉より芳し」
才能がある奴は小さいときから違うものだな、と凡庸な子供だった我が身をあきらめると
「大器晩成」
と、救われるようなことわざもある。まあ、私の歳になったら、このことわざも意味がないが。
「善は急げ」
と言うから急いでやろうとすると
「せいてはことを仕損じる」
と、ゆっくりやれと言う。
「一石二鳥」
とうまい話もあれば
「二兎を追うものは一兎をも得ず」
と戒める。
「初めが肝心」
そう、何事も最初が大事だよな、と思うと
「終わりよければ全てよし」
と、最初はどうでもいいようなことを言う。
「立つ鳥跡を濁さず」
立ち去るときはきちんとしていくことが大事だな、と思うと
「旅の恥はかき捨て」
とも言う。
「武士は食わねど高楊枝」
と、やせ我慢をして言ったかと思うと
「腹が減っては戦が出来ぬ」
プライドだけでは生きていけないからな。
これらのことわざ、一方が正しくて片方は間違い、というものではない。
人は、白黒に分けられるほど単純なものではないからだ。