メランコリア

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少年少女新しい世界の文学 24 雲の森の少年 ジョーン・ノース/著 学研

2023-11-12 13:57:13 | 
1973年初版 猪熊葉子/訳 キャロル・エヴェレスト/挿絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


「少年少女新しい世界の文学」シリーズの他の作品と違って
指輪が出てくるのは 『ロード・オブ・ザ・リング』
魔法を使うのは『ハリポタ』の要素がある

体が弱く、さえない少年が、実は凄い力の持ち主だった
というのは、今でもヒトが夢見る人気の物語だ

でも、1970年代に書かれたにしては
現代のスピリチュアルに通じるセンテンスがここかしこにあって驚いた

自分をありのまま認めて、神さま同様に光り輝かせ、表現すること
本当の愛になると、悪魔や敵ですら愛しい仲間に思えること

集団催眠によってエネルギーを集めて悪用し
人々を機械やロボットのように無意識に操るのは
新興宗教的でもあり、偏った情報が飛び交う現代社会にも通じる


【内容抜粋メモ】

登場人物
アンドリュー 12歳の少年 エミリー・レーシー孤児院から引き取られた
マリオン・バジャーおばさん 身寄りのないアンドリューを養っている 舎監
グラディス 女中

<スカーリー校>
スペンサー・チェレル校長
ウィンクルマン先生
ワーノック 小使

<アナリー屋敷>
サー・ラチェット・アナリー
カドリング 召使
レイモンド・アナリー
エドマンド・ホープ

<ローニー家>
ローニー・ピーターズ 父チャールズは考古学者 母アリス
エルジー 家政婦 ワーノックの一人娘だが父を憎んでいる
メイザース 運転手

ウィリアム・アーバスナット牧師
エレン・ランキン 牧師の家政婦だった
ウィドゲット夫人 エミリー・レーシー養老院院長


●アンドリューとローニー
エミリー・レーシー孤児院からスカーリー校の舎監バジャーおばさんに引き取られた
12歳のアンドリューは、つねに理由のない怖れと必死に戦っている

バジャーおばさんからサー・ラチェットにお使いを頼まれるが
アンドリューはアナリー屋敷に行くのがイヤでたまらない

図書室には車いすに座った老人が肖像画を指し示す
それは老人レイモンド・アナリーの若い頃を描いた
サー・ラチェットの腹違いの兄





ローニー・ピーターズは羊皮紙に財宝の隠し場所の地図を書いて持ち歩く少し変わった少女
アンドリューを見かけて声をかけたのがきっかけで友だちになる


●指輪
ある夜、アンドリューは白い霧が窓から入り、とても平和で幸せな気分になる

学校の敷地内に地図を埋めようとしているローニーを見かけ
アンドリューもリンゴの木を降りて、聖母聖堂の壁を教えると
小さな包みの中に紙きれと指輪を見つける







「アンドリュー・アナリーへ これはアナリー家の指輪である
 その時の至る時、指輪の保護の下にあり、救われんことを祈る R.A.」


指輪を手にすると、すべての怖れが消えて、強い幸福感に包まれるアンドリュー
ローニーはアンドリューのことじゃないかと言うが否定する
2人はまた夜中に抜け出して図書室で会おうと約束する


●雲の森
その晩、アンドリューは素晴らしい夢を見る
白い霧の森で裸の少年に会う






少年:
君がほんとうの君に話していると考えてごらんよ
外から始終あれこれ言って、混乱させる人たちのことなど耳にしないで
今はとくにとても危険だ

と言って消える

アンドリューは指輪をヒモに通して首にかけると
もう何も怖れなくなり、悪夢も見なくなる


●アナリー家の指輪に関するふしぎな伝説
ローニーとアンドリューはアンドリュー・アナリーが誰なのか調べることにする
休暇で実家に帰り、バザーに駆り出されたローニーは
『アナリー家の歴史』という古書を手に入れる







母がエミリー・レーシー養老院院長ウィドゲット夫人に会い
エドマンド・ホープの講義に強く誘われる
「自己開発」のクラスで、自分の中に埋もれている才能を引き出すという内容

ピーターズ夫人はエミリー・レーシーの子孫で信心深いが
最近はサー・ラチェットとスペンサー校長が仕切っていることに反対している

『アナリー家の歴史』は、アーバスナット牧師の家政婦で
最近死んだエレン・ランキンのものだと分かる

「アナリー家の指輪に関するふしぎな伝説」
さまざまな力を持ち、想像を現実化する
キリスト生誕の時、東方の賢者の1人がはめていたといわれる
偉大な真理の象徴


●自己開発の講義
アンドリューはしぶしぶアナリー家の講義を聞きに来る

エドマンド:あなた方はもし心の底から望むならば、すべて手に入れることが出来るのです

退屈したアンドリューは校長のお尻にピンが刺さればいいと思うと
校長は本当に痛い叫び声を上げた これは偶然か?







やがて指輪はどんどん熱くなり、耐えられず
気分が悪いと言って外に出ると治まる


●アーバスナット牧師
ローニーは牧師に相談しようと思って訪ね、古い剣をもらって喜ぶ






アンドリュー・アナリーについて、アナリー家で働いていた
エレンがなにか知ってるのではないかと聞く

13年ほど前、牧師の親友フィリップ・アナリーと
妻のアンの乗ったクルマが川に落ちて死んだ
生後6週間のアンドリューもいっしょだったが死体は発見されなかった

レイモンドは兄の死にショックを受けて抜け殻のようになった
サー・ラチェットは神経精神病学者として有名で大金持ち


●高熱
ローニーは牧師の話をアンドリューに話す
試しに模造品の果物が本物にならないか想像すると、現実化して美味しく食べる!

アンドリューは高熱を出して寝込む
バジャーおばさんは冷たくあしらうが
ウィンクルマン先生が同情して親切にしてくれる







ウィンクルマン先生は、アンドリューがキレイな目を褒めたことで
ずっと優雅になり、オシャレを気にするようになり、変化する
前からバジャーと校長らがニガテだったため、司書になることを考えてみる






アンドリューが図書室に来ないことを心配したローニーは
ウィンクルマン先生から流感で寝込んでいると聞いて
木に登り、窓から部屋に入り励ます


●悪の企み
ローニーは校長に小包を届けに行って、サー・ラチェットと校長の会話が聞こえて
慌ててカーテンの影に隠れる







2人は妙に親密で、エドマンドの講義で手下となる者を集めていることが分かる
最終的な目的は指輪を手に入れて、全世界を支配すること!

すべてはアンドリューにかかっていて、そのためにバジャーおばさんを雇った
レイモンドが指輪のありかを知っているが、悪の手に渡らないよう
指輪と一体化して隠してしまい、心の中に入ることができない

アンドリューがアナリー家の者だと確信するローニー


●奪われた指輪
アンドリューが指輪に魅入っているところをバジャーおばさんに見られて取り上げられ
アンドリュー・アナリーのことを話すと、激怒して、部屋にカギをかけられる






介抱に来たグラディスにローニー宛てのメモを渡してくれと頼む

また雲の森の夢を見て、レイモンドに会う

レイモンド:
お前はアンドリュー・アナリーだ ここは指輪の国
すべては指輪に任せる以外にない
あれはバジャーの机の上にある

ローニーは学校を去る旨のメモをベッドに置いて、寄宿学校を抜け出し
指輪を取り戻し、アンドリューと逃げ出すことにする
(この時のカギの取り方は、カッレくんの方法だ!







●逃亡
自転車がパンクしたため、ワーノックの古い幌つき馬車に入り、お茶を飲む
ひと眠りして起きるとワーノックさんが驚いて見ている

互いに見なかった約束をして、そこから歩いて実家に戻る途中で
アーバスナット牧師に会い、雪の中、クルマで送ってくれる途中
これまでのフシギな話をする

アーバスナット牧師:この指輪は君の父さんが洗礼の時に首にかけていた

聖ヨハネ教会に寄り、指輪を祭壇に乗せて3人で祈る
外は吹雪になり、足跡を消してくれたのも指輪の力だと分かる







バジャーからアンドリューが逃げたと聞いた校長は激怒する
同時に学校を抜け出したローニーと2人の関係を疑う
ウィンクルマン先生は吹雪の中、2人を探しに出る


●ピーターズ夫人
ローニーらはピーターズ夫人に事情を話すがにわかに信じられない
でも、アンドリューはこれまでになく居心地の良い家のベッドで手厚い看病を受ける







ウィドゲット夫人が養老院のクリスマス用の寄付金集めに来る
自己開発クラスに家政婦のエルジーがハマっていることを話す
今晩、特別な催しがあると誘う







アンドリューは、強い力でアナリー屋敷に呼ばれている気がする
ローニーは、アンドリューが心霊電波にさらされているのを牧師に話す

エレンのトランクから手紙が出てきたのを見せる牧師
アンドリュー・アナリーは両親と一緒ではなく
カドリングに500ポンドで渡したという懺悔の手紙

ローニーと牧師は、アナリー屋敷で今夜何が行われているのか見に行く
途中で死にかけた子猫を見つけて、連れて行く

窓から覗くと、バジャー、ウィドゲット夫人、エレン、養老院の人たちは
葬式の歌みたいな声を出して、髪を乱して踊っている
中央に白い顔が現れ、輝いている







アーバスナット牧師:
催眠術じゃないかと思うね 黒い魔法の一種だ
私は純粋な悪を体験したのは、これが初めてだ


●呪いと愛の力
アンドリューは子猫をすっかり気に入る

ウィンクルマン先生は学校を辞めて、2人を探しに来たため
しばらくピーターズ家に泊まることにする

病院から電話があり、ワーノックが雪で馬車に閉じこめられ
ストーブも消えて、ひどい風邪をひいて入院した、と聞いても
エルジーは縁を切ったのだと無視するので
ピーターズ夫人とローニーが見舞いに行く

ワーノック:エルジーがドアの隙間から風を送り、火を消したんだ!







雲の森で、レイモンドはアンドリューがアナリー屋敷に行く運命にあり
その時は牧師、ローニー、子猫を連れて行くようにと指示する







バジャーおばさんとウィドゲット夫人が来て
アンドリューの“病的な想像力”を信じないようにと忠告するが
ピーターズ夫人はもうしばらくここで休養させることにしたと言い張る

アンドリュー:
あの人たち、なんだか中身が詰まってない感じがする
からっぽで機械的なんだ

アーバスナット牧師:
私たちは皆、機械的になる危険にさらされている
とくに歳をとるにつれて、習慣のとりこになり
同じことを繰り返し考え、同じように反応する
しばしば立ち止まり、自分は誰で、何をしているか、自分に問わなきゃいかん


個性(パーソナリティ)は仮面(ペルソナ)からきている
世間に示したいと思う姿だが、それが本物の自己とは言えない
真に創造的なものは、静寂と安静の中にしか生まれない

アンドリュー:
アーバスナット牧師さんが言いたいのは
君は愛ってことを考えるべきだってことじゃないのかな

指輪をしていると、誰かを憎むのは難しかった
どれほど変わっていても、この世界に満ちている
驚異や多様さを分け合っているとも言えるのだから



●指輪の力
アンドリューは放心状態でアナリー屋敷に導かれる






サー・ラチェットは彼を歓迎し、ローニーと牧師は閉め出される

図書室でサー・ラチェットを見ると、命令に従いたくなるが
ガラスが割れる音がして気づく レイモンドの仕業

牧師の言った“希望”を探し、見失う
子猫が膝に飛び乗り、また我にかえる

自分が世界の中心にいる 自分のいるべき場所に
サー・ラチェットには憐れみと友情しか感じない
なにかをそんなに一心に欲しがるとはなんと愚かなことか

サー・ラチェットに指輪を渡すと、炎が燃え上がり
2人の間の裂け目に落ちて行く

アンドリューはレイモンドと雲の森にいて
アナリー屋敷は炎に包まれている
消防車がかけつけ、牧師は皆を乗せて、その場を去る


●結末
サー・ラチェットは見つからなかった
バスに乗ったクラスの一団は、事故に遭い、入院
放心して運転していたカドリングは飲酒運転の疑いをかけられる

バジャー、ウィドゲット夫人、養老院の老婦人たちは消息不明
犯罪組織に属していたらしい 箒が見つかり、ローニーは魔女だと信じる

ワーノックは回復したが、エルジーもエドマンド、カドリングも行方不明

アンドリューは屋敷の主となり、レイモンドと牧師が後見人となる
その後、牧師はウィンクルマン先生と結婚!

スペンサー校長は辞職し、その後、名前を変えて教育番組などに出て有名になった!

アンドリューとローニーは進歩的な寄宿学校に移る
二度と雲の森に入れず、寂しく思う









訳者あとがき

ジョーン・ノース
15歳まで中国とイギリスを往復して過ごし、9回も転校した
第二次世界大戦中は空軍に勤務
戦闘機のパイロットと結婚したが、夫は戦死
数学教授と再婚、2人の娘の母となる
発表した作品数はわずか

善悪が対立する物語では、作者は悪人を書くことは成功するが
善人をうまく書くのは難しいとよく言われる
本書ではローニー、アーバスナット牧師というユーモラスな人物が魅力を増している

一方、“ほんとうの自分”とは何か
人間の心理にそくして描いていて
ファンタジーだけでなく、ずっと底が深い物語といえる


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