昭和51年初版 白柳美彦/訳 武部本一郎/絵
※「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します
「少年少女サスペンス冒険」シリーズの最初を飾るだけあって
本書もかなり濃厚でハラハラドキドキ&涙と感動の冒険物語だった
単純な勧善懲悪ではなく、ヒトの強さ、弱さ、あらゆる側面を描いている
その著者が、戦争中の武器商人だったという経歴にもビックリ
人殺しの道具を売りつつ、こうした道徳の話を書くこともできるって
ニンゲンはつくづく面白い生き物だなあ
各章の見出しの下に、その章で描かれる物語を示唆するような
詩が書かれている
【内容抜粋メモ】
登場人物
ジョン・トレンチャード
叔母アーノルド ジョンの母の妹
グレニー先生 牧師
ラツィー 寺男
エルゼビヤ・ブロック
デイビッド エルゼビヤの一人息子
マスキュー治安判事
グレース・マスキュー 判事の一人娘
ジョン・ムーン大佐 黒ひげ 悪事の末に死んだ
アルドブラント 宝石商
●ムーンフリート村“ムーン家の入り江”
1757年秋
15歳のジョンに両親は亡く、叔母アーノルドの世話になっている
寺男ラツィーはグレニー先生の詩を刻んだ墓石をつくる
15歳で亡くなったデイビッド・ブロックは
一杯屋という酒場をやっているエルゼビヤの一人息子
密輸入の帆船に乗り合わせていて、ムーンフリートの荘園に住む
マスキュー治安判事に至近距離から顔面を撃たれて即死した
エルゼビヤは息子の遺体を店の大きなテーブルに横たえ
長いこと話しかけていたため、客足が遠のき三羽烏屋に行くようになった
ラツィー:アララトミルクは秋の夜寒にはいちばんだ
何代にもわたってあるすごろく盤でゲームを始めるラツィーとエルゼビヤ
そこにはラテン語でこう彫られていた
“さいころ遊びもまた人生と同じである
ひどい不運も、わざの力でなんとか切り抜けることができる”
●黒ひげ ジョン・ムーン大佐
約100年前の人物で、教会地下の納骨堂に葬られている
チャールズ一世を逃がしてダイヤモンドを手に入れる約束をして
王も味方も裏切った
その時隠したダイヤモンドを今でも探して
夜な夜な、墓場に現れると噂され
ジョーンズという男が、近くで死んでいたのも
彼を見たのが原因と言われている
●洪水
嵐のムーンフリート湾では、どんな有能な船乗りでも「突鼻」で座礁し
岸まで泳ごうとしても水に飲まれて、助かる者は1人もいない
村人は浜に打ち上げられる人を救助するために集まり
流れ着くものを集めて、あとで全員で分ける習慣がある
そんな夜は、浜から遠い村で穏やかに眠れることを神に感謝する
教会の礼拝中、床下の納骨堂から奇妙な音がして
みんな逃げ出すが、エルゼビヤ、ジョン、ラツィーらは残る
グレニー先生:
人はだれでも一生のうちに、ムーン家の紋章のような
Yの字のような分かれ道にさしかかるものだ
広くて緩やかな道を行くか、狭くて険しい道を行くか
自分で決めなければならない
緩やかな道は滅びに至るラクな下り坂
狭いほうは人を高みに導くのぼりの道
昔から“ムーン家の者が動いたら、ムーンフリートにロクなことがない”という言い伝えがある
ムーン大佐は、最期にダイヤモンドを売って、慈善院を建て直し
罪を償おうとした矢先に死んだのを今でも悔いているのではないかともいわれる
ジョンはダイヤモンドが納骨堂に隠されているのではないかと疑い
行ってみると、エルゼビヤとラツィーがいて、地下道を修繕していると誤魔化す
●秘密の穴
ジョンは墓地にある祭壇型墓標から海を広く眺めることが好きで
その日もそうして過ごしていると、洪水の後でひび割れた土から地下に続く穴を見つける
夜中に道具を揃えて穴に入ると、納骨堂に続く地下道の先に
密貿易の酒蔵を見つける ここに海水が入り、音がしていた
エルゼビヤらが地下道に入ってきて、ジョンは慌てて棺桶の隙間に隠れる
村人がここいらを調べていたジョンが怪しいと言うとかばってくれるラツィー
彼らが去り、納骨堂から出ようとした際、ムーン大佐の棺桶を崩して
黒ひげをもぎとってしまう!
恐る恐る棺桶を調べて、首にかけたロケットの中から聖書の詩編が書かれた紙を見つける
ダイヤモンドの隠し場所かもしれないが、暗号は解けないまま
魔除けとして、ロケットを首にかける
ラツィーらは穴をふさいだため、漆黒の闇の中に閉じこめられたジョン
大声で叫び、血が出るほど掘ってもムダで、酒蔵の酒で渇きを癒し
ひん死で眠っていたのをエルゼビヤに救われ、一杯屋で寝かされる
ジョーンズが死んだのも、あの穴に入って出られなくなったからと聞く
ジェーン叔母に家を追い出され、ジョンはエルゼビヤに誘われ、息子のように扱われる
●マスキュー
マスキューは大金持ちにも関わらず、ひどくケチで
妻を亡くしてから屋敷も庭も荒れ放題
デイビッドの墓石の詩編を読んで憤慨し、グレニー先生に暴言を吐いた上
買ってきた魚で顔をひっぱたき、娘グレースを連れて去った
その後、グレースは学校に通わなくなり
ジョンは時々、荘園に行きこっそり会って語らっている
●入札
コーンワル公領の土地管理役が5年に一度
王室の財産を視察し、賃貸契約を更新する
一杯屋にも来て、しきたり通り、ロウソクにピンを刺し
蝋が溶けて落ちるまでに入札がなければ更新されるはずが
なぜかマスキューがやって来て、値を吊り上げ始める
もとは年12ポンドなのに、200ポンドでマスキューが落札
管理人はエルゼビヤにもっと良い酒屋を斡旋するが断わり
もう二度と酒屋はしないと誓うエルゼビヤ
●対決
ジョンも密輸入を手伝いはじめ、エルゼビヤと話していると
誰か盗み聴きしていたような気がする
グレースには秘密をすべて話し、船でワースへ行かねばならないと伝える
叔母にも挨拶すると、小さな祈祷書を持たせる
酒樽を積んだボナベンチュア号は、ガルダー潮の気まぐれで早めに着いた
ホーア岬の二の段に着いた時、密輸団を待ち伏せしていたマスキューが追って来る
やはり計画を盗み聞きしていた
だが、仲間に捕まり、手足を縛られ、「撃ち殺せ」と騒ぐのを止めるエルゼビヤ
息子の仇をうつなら自分だと言い、入札と同じようにロウソクにピンを刺すが
マスキューが命乞いをし、ジョンも止める
エルゼビヤ:
たとえ息子を殺されても、手足を縛った犬を殺すのは気がすすまない
だが、どちらか死ななければ、仲間がしばり首になる
ピンが落ちた瞬間、ジョンはエルゼビヤの手にすがり、ピストルは空を撃った
しかし、警官隊の撃った流れ弾がマスキューの額を貫いて即死する
●逃走
2人はマスキュー殺しで追われ、ジョンは足に弾が当たって動けなくなる
エルゼビヤはジョンを担いで、誰も知らない崖っぷちを歩く
幅の狭い場所で、ジョンは眼下の絶壁を見て凍りつくがようやく道路に出る
鳥を撃っている少年から銃と弾を買うが、エルゼビヤは50ポンド
ジョンは20ポンドの賞金がかけられたことで少年に気づかれる
エルゼビヤはジョンを大理石の採石場跡の洞窟に連れて行き
足が治るまで、ここで1か月ほど過ごす
ラツィーが時々、食糧などを運んだが、周囲の目が厳しくなり
もう来れないだろうと言いに来る
ラツィーはロケットの聖書の文句を読み、詩句の節の数字が間違っていると指摘
エルゼビヤに話すと、ぜんぶ違っているのはたしかに不自然で暗号を解くと
“80フィートの深い井戸の北”
つまり、ムーン大佐がいたカリズブルックの城の井戸にダイヤモンドがあると分かる
足が治り、ボナベンチュア号で密輸仲間の手を借りてフランスに渡る前日
グレースに会い行く 彼女は父親が死んでも、逮捕状に署名するのを断ったと知る
グレース:
ダイヤモンドにはなにかよくないことがつきまとっている
もしあなたが見つけても、大佐が望んだ通りにして霊を慰めたほうがいいことよ
私は今まで通り、毎晩ロウソクを窓に灯してあなたが帰るまで待っています
●変装
エルゼビヤとジョンは農家の親子に扮してフランスに渡り、角笛屋に泊まる
エルゼビヤは密輸業者の首領株で、仲間が手厚くもてなしてくれる
カリズブルック城はフランス人捕虜であふれ
井戸小屋に行くには信用ならない井戸番に秘密を打ち明け
分け前をやると言うしかなかった
エルゼビヤ:
お前はわしの宝だ
世界中のダイヤモンドを取り損なっても、お前をなくしたくない
こんなことはいっそ止めてもいい
ここでもY字の分かれ道があったが、若いジョンは大金持ちになって村に帰り
グレースと結婚することを夢見て、ロープにつないだ桶に入り、井戸をおりていく
●井戸
80フィートより少し下にYの印がついたレンガを見つけ
その奥に羊皮紙の袋に入った巨大ダイヤモンドをとうとう見つける!
牢番は「オレの井戸だから、ダイヤモンドもオレのものだ」と言って発砲
エルゼビヤと格闘になり、バランスを崩して井戸に落ちる
エルゼビヤが探しに行くが、水の底で見つからない
●宝石商 アルドブラント
牢番の死が分かる前にオランダに渡り、宝石に一番いい値をつけてくれる相手を探す
宝石商アルドブラントは、水夫の変装をした2人を見て
「おもちゃに用はない」とつっぱねるが
ダイヤモンドを見た瞬間、顔色が変わる
ジョンは聞かれるままに本名と住所まで教えたことを悔やむ
老人は宝石を測りに乗せたり、液体をかけたりして本物かどうかを調べ
これはよくできた人造宝石で、50シリングと値をつける
2人は失望して、エルゼビヤは庭に投げてしまう
その慌てぶりから、あれは本物で、騙されたんだとエルゼビヤを説得
夜、宝石商の家を覗くと、他のダイヤと並べてうっとり眺めているのを見たジョンは
窓ガラスを破って侵入 警鐘が鳴り、召使いに捕らわれてしまう
ここでもYの字の分かれ道だった
●イーメヘン
2人は牢屋に入れられ、裁判もアルドブラントの一方的な証言で有罪判決を受け
イーメヘンの田舎村で王家の城を造る終身労働苦役となる
日々の苦しい労働で頭が働かず、昔の思い出もダイヤモンドの夢も忘れた
頬に一生消えない囚人の烙印を押される
イーメヘンのYの字は、ムーン家の紋章の意味でもあった
10年後、26歳になり、エルゼビヤも含めた三十人はジャワの植民地に移動となる
6人1組、手錠でつなぎ合わせたまま、ひどい悪臭の船底に閉じこめられる
船が嵐に遭い、牢番はカギを落として
「腕と度胸次第だ 早い者勝ちだぞ」と言って、ボートに乗って去る
甲板に上がると水夫も誰もいない
周りを見ると、そこはムーンフリートの入り江だと分かる!
船に残された重いボートは、乗ったら最後、誰も助からないと忠告するが
海に疎い囚人たちはみな我先にボートに乗り
船に残ったのはエルゼビヤとジョンだけ
グレースが灯す“マスキューの灯”を見て、忘れていた記憶が戻る
村人は総出で青火をたいて、救助しようと待ち構えている
エルゼビヤ:
次の大波が来る前に、できるだけ小石の原を駆けのぼれ!
岸からロープを投げてくれるから捕まるんだ 生きて会おうぜ
互いにロープで結び合った人々が見えるのに、コルクのように押し流され
半分死にかけたジョンに「これが最後のチャンスだ」と言って
ジョンをつかんでロープに放り投げるエルゼビヤ
●勇者のために鐘をならせよ クーパー
一杯屋のテーブルに寝かされたジョンはラツィーと再会
船で助かったのはジョンだけと分かる
浜から見ると、船は無残にバラバラとなり打ち付けられている
エルゼビヤは安らかな顔で流れ着き、蜘蛛の巣が張った一杯屋のテーブルに寝かす
ジョン:
今の僕に自由が何になろう どこへ行き、何をしたらいいんだ
愛するともがこの世にいないのに・・・
グレース:ずっとあなたを待っている者がいると思いませんでしたの?
ジョン:キミは身分のある貴婦人で、ボクは惨めな敗残者だ
グレース:
人の値打ちを決めるのは財産ではありません
頬の烙印は、監獄ではなく、ムーン家の印だと思います
もし、この先、あの宝物があなたのところにかえるとしても
けして手をつけないでください
グレースがサインしなかったため
逮捕令状も賞金も何年も前に消えているという
叔母を含め、何人かが世を去ったほか、村はなにも変わらずにあった
グレニー先生:
大詩人のホーマーも、骨まで凍る悲しみも
たちまちきわまって人の心は堪能する、と言っている
8年前にきた手紙に、宝石商アルドブラントが全財産をジョンに残したとある
彼はダイヤモンドを売った後、相次いで失敗して富を失い
亡くなる前に黒ひげの幻覚に怯えていた
だから、幸いの時、富を得た時もお祈りする必要がある
正しいことに使うようお導きくだされと
富より素晴らしい宝がこの世にあることを忘れぬように
たとえば心の正しい夫人との出逢いは全世界の黄金よりずっと尊いものだ
アルドブラントの富を受け取ったジョンは、慈善院を再建しムーン養老院となった
突鼻に灯台をたて、教会を改装、地下道もふさいだ
一杯屋はそのまま残し、営業を再開
エルゼビヤの墓にはグレニー先生の詩が刻まれている
“友のため命を捨てるより大いなる愛はなし”
今やジョンは荘園に住む治安判事で、グレースと結婚し
グレース、ジョン、エルゼビヤと名付けた子どもに恵まれて
ムーンフリートで暮らしている
嵐の夜には、ベッドの中で胸の底から神さまに感謝する
その後も、何度も難破船の乗組員を救おうとしたが
生きて浜につく者は1人もいない
■あとがき
1757年頃は「7年戦争」の最中
国民はみな大酒を飲んだ おもにジン
小説の舞台、ムーンフリートは、イギリス南岸にある村がモデルと言われる
フォークナー(1858~1932)
『宝島』を書いたスチーブンソンと同時代の人
冒険小説が大流行し、本書も大評判となり、古典として愛読されている
本職は実業家 外国に武器、戦艦を売り込んでいたため世界各地を旅行し
本が好きで、古文書に詳しく、イギリスはもちろん
ローマ法王のために図書室もつくった
※「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します
「少年少女サスペンス冒険」シリーズの最初を飾るだけあって
本書もかなり濃厚でハラハラドキドキ&涙と感動の冒険物語だった
単純な勧善懲悪ではなく、ヒトの強さ、弱さ、あらゆる側面を描いている
その著者が、戦争中の武器商人だったという経歴にもビックリ
人殺しの道具を売りつつ、こうした道徳の話を書くこともできるって
ニンゲンはつくづく面白い生き物だなあ
各章の見出しの下に、その章で描かれる物語を示唆するような
詩が書かれている
【内容抜粋メモ】
登場人物
ジョン・トレンチャード
叔母アーノルド ジョンの母の妹
グレニー先生 牧師
ラツィー 寺男
エルゼビヤ・ブロック
デイビッド エルゼビヤの一人息子
マスキュー治安判事
グレース・マスキュー 判事の一人娘
ジョン・ムーン大佐 黒ひげ 悪事の末に死んだ
アルドブラント 宝石商
●ムーンフリート村“ムーン家の入り江”
1757年秋
15歳のジョンに両親は亡く、叔母アーノルドの世話になっている
寺男ラツィーはグレニー先生の詩を刻んだ墓石をつくる
15歳で亡くなったデイビッド・ブロックは
一杯屋という酒場をやっているエルゼビヤの一人息子
密輸入の帆船に乗り合わせていて、ムーンフリートの荘園に住む
マスキュー治安判事に至近距離から顔面を撃たれて即死した
エルゼビヤは息子の遺体を店の大きなテーブルに横たえ
長いこと話しかけていたため、客足が遠のき三羽烏屋に行くようになった
ラツィー:アララトミルクは秋の夜寒にはいちばんだ
何代にもわたってあるすごろく盤でゲームを始めるラツィーとエルゼビヤ
そこにはラテン語でこう彫られていた
“さいころ遊びもまた人生と同じである
ひどい不運も、わざの力でなんとか切り抜けることができる”
●黒ひげ ジョン・ムーン大佐
約100年前の人物で、教会地下の納骨堂に葬られている
チャールズ一世を逃がしてダイヤモンドを手に入れる約束をして
王も味方も裏切った
その時隠したダイヤモンドを今でも探して
夜な夜な、墓場に現れると噂され
ジョーンズという男が、近くで死んでいたのも
彼を見たのが原因と言われている
●洪水
嵐のムーンフリート湾では、どんな有能な船乗りでも「突鼻」で座礁し
岸まで泳ごうとしても水に飲まれて、助かる者は1人もいない
村人は浜に打ち上げられる人を救助するために集まり
流れ着くものを集めて、あとで全員で分ける習慣がある
そんな夜は、浜から遠い村で穏やかに眠れることを神に感謝する
教会の礼拝中、床下の納骨堂から奇妙な音がして
みんな逃げ出すが、エルゼビヤ、ジョン、ラツィーらは残る
グレニー先生:
人はだれでも一生のうちに、ムーン家の紋章のような
Yの字のような分かれ道にさしかかるものだ
広くて緩やかな道を行くか、狭くて険しい道を行くか
自分で決めなければならない
緩やかな道は滅びに至るラクな下り坂
狭いほうは人を高みに導くのぼりの道
昔から“ムーン家の者が動いたら、ムーンフリートにロクなことがない”という言い伝えがある
ムーン大佐は、最期にダイヤモンドを売って、慈善院を建て直し
罪を償おうとした矢先に死んだのを今でも悔いているのではないかともいわれる
ジョンはダイヤモンドが納骨堂に隠されているのではないかと疑い
行ってみると、エルゼビヤとラツィーがいて、地下道を修繕していると誤魔化す
●秘密の穴
ジョンは墓地にある祭壇型墓標から海を広く眺めることが好きで
その日もそうして過ごしていると、洪水の後でひび割れた土から地下に続く穴を見つける
夜中に道具を揃えて穴に入ると、納骨堂に続く地下道の先に
密貿易の酒蔵を見つける ここに海水が入り、音がしていた
エルゼビヤらが地下道に入ってきて、ジョンは慌てて棺桶の隙間に隠れる
村人がここいらを調べていたジョンが怪しいと言うとかばってくれるラツィー
彼らが去り、納骨堂から出ようとした際、ムーン大佐の棺桶を崩して
黒ひげをもぎとってしまう!
恐る恐る棺桶を調べて、首にかけたロケットの中から聖書の詩編が書かれた紙を見つける
ダイヤモンドの隠し場所かもしれないが、暗号は解けないまま
魔除けとして、ロケットを首にかける
ラツィーらは穴をふさいだため、漆黒の闇の中に閉じこめられたジョン
大声で叫び、血が出るほど掘ってもムダで、酒蔵の酒で渇きを癒し
ひん死で眠っていたのをエルゼビヤに救われ、一杯屋で寝かされる
ジョーンズが死んだのも、あの穴に入って出られなくなったからと聞く
ジェーン叔母に家を追い出され、ジョンはエルゼビヤに誘われ、息子のように扱われる
●マスキュー
マスキューは大金持ちにも関わらず、ひどくケチで
妻を亡くしてから屋敷も庭も荒れ放題
デイビッドの墓石の詩編を読んで憤慨し、グレニー先生に暴言を吐いた上
買ってきた魚で顔をひっぱたき、娘グレースを連れて去った
その後、グレースは学校に通わなくなり
ジョンは時々、荘園に行きこっそり会って語らっている
●入札
コーンワル公領の土地管理役が5年に一度
王室の財産を視察し、賃貸契約を更新する
一杯屋にも来て、しきたり通り、ロウソクにピンを刺し
蝋が溶けて落ちるまでに入札がなければ更新されるはずが
なぜかマスキューがやって来て、値を吊り上げ始める
もとは年12ポンドなのに、200ポンドでマスキューが落札
管理人はエルゼビヤにもっと良い酒屋を斡旋するが断わり
もう二度と酒屋はしないと誓うエルゼビヤ
●対決
ジョンも密輸入を手伝いはじめ、エルゼビヤと話していると
誰か盗み聴きしていたような気がする
グレースには秘密をすべて話し、船でワースへ行かねばならないと伝える
叔母にも挨拶すると、小さな祈祷書を持たせる
酒樽を積んだボナベンチュア号は、ガルダー潮の気まぐれで早めに着いた
ホーア岬の二の段に着いた時、密輸団を待ち伏せしていたマスキューが追って来る
やはり計画を盗み聞きしていた
だが、仲間に捕まり、手足を縛られ、「撃ち殺せ」と騒ぐのを止めるエルゼビヤ
息子の仇をうつなら自分だと言い、入札と同じようにロウソクにピンを刺すが
マスキューが命乞いをし、ジョンも止める
エルゼビヤ:
たとえ息子を殺されても、手足を縛った犬を殺すのは気がすすまない
だが、どちらか死ななければ、仲間がしばり首になる
ピンが落ちた瞬間、ジョンはエルゼビヤの手にすがり、ピストルは空を撃った
しかし、警官隊の撃った流れ弾がマスキューの額を貫いて即死する
●逃走
2人はマスキュー殺しで追われ、ジョンは足に弾が当たって動けなくなる
エルゼビヤはジョンを担いで、誰も知らない崖っぷちを歩く
幅の狭い場所で、ジョンは眼下の絶壁を見て凍りつくがようやく道路に出る
鳥を撃っている少年から銃と弾を買うが、エルゼビヤは50ポンド
ジョンは20ポンドの賞金がかけられたことで少年に気づかれる
エルゼビヤはジョンを大理石の採石場跡の洞窟に連れて行き
足が治るまで、ここで1か月ほど過ごす
ラツィーが時々、食糧などを運んだが、周囲の目が厳しくなり
もう来れないだろうと言いに来る
ラツィーはロケットの聖書の文句を読み、詩句の節の数字が間違っていると指摘
エルゼビヤに話すと、ぜんぶ違っているのはたしかに不自然で暗号を解くと
“80フィートの深い井戸の北”
つまり、ムーン大佐がいたカリズブルックの城の井戸にダイヤモンドがあると分かる
足が治り、ボナベンチュア号で密輸仲間の手を借りてフランスに渡る前日
グレースに会い行く 彼女は父親が死んでも、逮捕状に署名するのを断ったと知る
グレース:
ダイヤモンドにはなにかよくないことがつきまとっている
もしあなたが見つけても、大佐が望んだ通りにして霊を慰めたほうがいいことよ
私は今まで通り、毎晩ロウソクを窓に灯してあなたが帰るまで待っています
●変装
エルゼビヤとジョンは農家の親子に扮してフランスに渡り、角笛屋に泊まる
エルゼビヤは密輸業者の首領株で、仲間が手厚くもてなしてくれる
カリズブルック城はフランス人捕虜であふれ
井戸小屋に行くには信用ならない井戸番に秘密を打ち明け
分け前をやると言うしかなかった
エルゼビヤ:
お前はわしの宝だ
世界中のダイヤモンドを取り損なっても、お前をなくしたくない
こんなことはいっそ止めてもいい
ここでもY字の分かれ道があったが、若いジョンは大金持ちになって村に帰り
グレースと結婚することを夢見て、ロープにつないだ桶に入り、井戸をおりていく
●井戸
80フィートより少し下にYの印がついたレンガを見つけ
その奥に羊皮紙の袋に入った巨大ダイヤモンドをとうとう見つける!
牢番は「オレの井戸だから、ダイヤモンドもオレのものだ」と言って発砲
エルゼビヤと格闘になり、バランスを崩して井戸に落ちる
エルゼビヤが探しに行くが、水の底で見つからない
●宝石商 アルドブラント
牢番の死が分かる前にオランダに渡り、宝石に一番いい値をつけてくれる相手を探す
宝石商アルドブラントは、水夫の変装をした2人を見て
「おもちゃに用はない」とつっぱねるが
ダイヤモンドを見た瞬間、顔色が変わる
ジョンは聞かれるままに本名と住所まで教えたことを悔やむ
老人は宝石を測りに乗せたり、液体をかけたりして本物かどうかを調べ
これはよくできた人造宝石で、50シリングと値をつける
2人は失望して、エルゼビヤは庭に投げてしまう
その慌てぶりから、あれは本物で、騙されたんだとエルゼビヤを説得
夜、宝石商の家を覗くと、他のダイヤと並べてうっとり眺めているのを見たジョンは
窓ガラスを破って侵入 警鐘が鳴り、召使いに捕らわれてしまう
ここでもYの字の分かれ道だった
●イーメヘン
2人は牢屋に入れられ、裁判もアルドブラントの一方的な証言で有罪判決を受け
イーメヘンの田舎村で王家の城を造る終身労働苦役となる
日々の苦しい労働で頭が働かず、昔の思い出もダイヤモンドの夢も忘れた
頬に一生消えない囚人の烙印を押される
イーメヘンのYの字は、ムーン家の紋章の意味でもあった
10年後、26歳になり、エルゼビヤも含めた三十人はジャワの植民地に移動となる
6人1組、手錠でつなぎ合わせたまま、ひどい悪臭の船底に閉じこめられる
船が嵐に遭い、牢番はカギを落として
「腕と度胸次第だ 早い者勝ちだぞ」と言って、ボートに乗って去る
甲板に上がると水夫も誰もいない
周りを見ると、そこはムーンフリートの入り江だと分かる!
船に残された重いボートは、乗ったら最後、誰も助からないと忠告するが
海に疎い囚人たちはみな我先にボートに乗り
船に残ったのはエルゼビヤとジョンだけ
グレースが灯す“マスキューの灯”を見て、忘れていた記憶が戻る
村人は総出で青火をたいて、救助しようと待ち構えている
エルゼビヤ:
次の大波が来る前に、できるだけ小石の原を駆けのぼれ!
岸からロープを投げてくれるから捕まるんだ 生きて会おうぜ
互いにロープで結び合った人々が見えるのに、コルクのように押し流され
半分死にかけたジョンに「これが最後のチャンスだ」と言って
ジョンをつかんでロープに放り投げるエルゼビヤ
●勇者のために鐘をならせよ クーパー
一杯屋のテーブルに寝かされたジョンはラツィーと再会
船で助かったのはジョンだけと分かる
浜から見ると、船は無残にバラバラとなり打ち付けられている
エルゼビヤは安らかな顔で流れ着き、蜘蛛の巣が張った一杯屋のテーブルに寝かす
ジョン:
今の僕に自由が何になろう どこへ行き、何をしたらいいんだ
愛するともがこの世にいないのに・・・
グレース:ずっとあなたを待っている者がいると思いませんでしたの?
ジョン:キミは身分のある貴婦人で、ボクは惨めな敗残者だ
グレース:
人の値打ちを決めるのは財産ではありません
頬の烙印は、監獄ではなく、ムーン家の印だと思います
もし、この先、あの宝物があなたのところにかえるとしても
けして手をつけないでください
グレースがサインしなかったため
逮捕令状も賞金も何年も前に消えているという
叔母を含め、何人かが世を去ったほか、村はなにも変わらずにあった
グレニー先生:
大詩人のホーマーも、骨まで凍る悲しみも
たちまちきわまって人の心は堪能する、と言っている
8年前にきた手紙に、宝石商アルドブラントが全財産をジョンに残したとある
彼はダイヤモンドを売った後、相次いで失敗して富を失い
亡くなる前に黒ひげの幻覚に怯えていた
だから、幸いの時、富を得た時もお祈りする必要がある
正しいことに使うようお導きくだされと
富より素晴らしい宝がこの世にあることを忘れぬように
たとえば心の正しい夫人との出逢いは全世界の黄金よりずっと尊いものだ
アルドブラントの富を受け取ったジョンは、慈善院を再建しムーン養老院となった
突鼻に灯台をたて、教会を改装、地下道もふさいだ
一杯屋はそのまま残し、営業を再開
エルゼビヤの墓にはグレニー先生の詩が刻まれている
“友のため命を捨てるより大いなる愛はなし”
今やジョンは荘園に住む治安判事で、グレースと結婚し
グレース、ジョン、エルゼビヤと名付けた子どもに恵まれて
ムーンフリートで暮らしている
嵐の夜には、ベッドの中で胸の底から神さまに感謝する
その後も、何度も難破船の乗組員を救おうとしたが
生きて浜につく者は1人もいない
■あとがき
1757年頃は「7年戦争」の最中
国民はみな大酒を飲んだ おもにジン
小説の舞台、ムーンフリートは、イギリス南岸にある村がモデルと言われる
フォークナー(1858~1932)
『宝島』を書いたスチーブンソンと同時代の人
冒険小説が大流行し、本書も大評判となり、古典として愛読されている
本職は実業家 外国に武器、戦艦を売り込んでいたため世界各地を旅行し
本が好きで、古文書に詳しく、イギリスはもちろん
ローマ法王のために図書室もつくった