■「欲望のあいまいな対象/Cet Odscur Objet Du Desir」(1977年・フランス=スペイン)
監督=ルイス・ブニュエル
主演=フェルナンド・レイ キャロル・ブーケ アンヘラ・モリーナ
男にとって不可解な生き物である女性。しかし、男は女に惹かれずにはいられない。メイドとして務めていた若い女にのめり込んでしまったフェルナンド・レイ扮する初老男が、彼女に振り回される様を描く。ルイス・ブニュエル監督の遺作となったフィルム。「ブルジョアジーの密かな愉しみ」では頭を抱えてしまった僕だが、これは快作!気に入った。コンパートメントで主人公によって語られるお話は、同じ事を繰り返しているだけなのだけど、ブニュエルの魔法でこれが不思議な魅力が出てくるんだよね。これに財産目当ての殺しが絡んでくると、「暗くなるまでこの恋を」的な男女の腐れ縁話になるのだろうけど。
年取って女に狂うと大変とはよく言うけれど、やはりそうなのかなぁ。主人公の狂気じみた愛情はとどまるところを知らず、ヨーロッパ各地へ彼女を追いかける。じらしにじらされる彼の苦悩はおかしくもあり、あわれでもあり、男としては同情したり(笑)。征服欲、所有欲・・・やはり男は情けないくらいに煩悩の固まりだ。されど、そんな男たちの姿を銀幕で眺め、我が身を振り返るのことができるのも映画のおかげ。ありがたや、ありがたや。
ピエール・ルイスの原作はマレーネ・ディートリッヒやブリジッド・バルドー主演で、今まで何度も映画化されたものらしい。昔の歌謡曲に 追いかければ逃ーげていく あなたは罪な人ーね~(♪射手座の女) ってのがあったけど(失礼)、誘ったかと思えば離れていく、”あいまいな”女性の二面性を表現するために、ブニュエルは映画史上例のない二人一役という手法を用いた。”処女性”を演ずるのはこれがデビュー作となったキャロル・ブーケ。スレンダーでクールな側面を演ずる。一方”娼婦性”を演ずるのが、肉感的なスペイン女優アンヘラ・モリーナ。どちらも好演。そもそもはマリア・シュナイダー一人で演ずる予定だったらしいんだけど、この手法に変更したそうな。これには賛否あるところだろうけど、僕は納得します。
(2002年筆)