■「人生、ここにあり/Si Puo Fare」(2008年・イタリア)
監督=ジュリオ・マンフレドニア
主演=クラウディオ・ビジオ アニタ・カプリオーリ アンドレア・ボスカ ジョヴァンニ・カルカーニョ
イタリアでは1978年に精神病院廃絶法(提唱者の名をとってバザーリア法と呼ばれる)が制定され、患者を無期限に病院に収容することがなきなくなった。それは隔離するのではなく、自由こそが治療になるという考えに基づく。地域の精神保健サービス機関で治療を受け、実社会と共存させようとする世界でも珍しい試みだ。映画「人生、ここにあり」(どうも古くさく感じるの邦題・・・)は、実話に基づく物語。精神病患者が稼げる仕事をして社会参加と人間としても成長を果たす姿を、組合の代表である主人公ネッロの奮闘を描いた物語だ。バザーリア法の考えや人権面からの必要性もよくわかる。一方で患者の生活をフォローする組合やそれを支える職員の苦労、社会と患者たちのかかわりなど多くの問題もある。この映画はこうした厳しい現実を踏まえて、実話に基づいて生きていくことの素晴らしさを謳った秀作。
よき映画に大切なのはヒューマニズムであると思ってきた。もちろんエンターテイメントであることも、見せ物である映画には大切なことかもしれない。だけど、そこで語られるエピソードが人の気持ちや生き方を批判するようなものであるべきではないし、価値観を押しつけるようなものであってはならない。映画を通じて知る異国の現実。多少の美化や誇張はされているかもしれないけれど、そこから僕らは生き方を学ぶことができるはず。このイタリア映画「人生、ここにあり」は地味ながらも生きることを肯定してくれる強さがある。
労働組合で活動していた主人公ネッロは、その攻撃的な手法から組合から外され「協同組合180」にやってくる。そこは元精神病院患者の組合で、医師の元で薬を投与されながら封筒貼りなどの内職をしていた。個性的なメンバーたちを前にネッロは社会に貢献できる仕事を提案しようとするがうまくいかない。そんな時、床張りの仕事で寄木細工に抜群のセンスを発揮することになり、組合には仕事が殺到。ネッロはさらに活動しやすくするために、薬に依存しない別な医師の元で新たな事務所を開く。しかし、仕事を成し遂げることよりも社会と接する楽しさを覚えた組合員たちは、やっと獲得したパリでの大仕事に見向きもしない。そんな時、健常者の娘に恋した一人が、自分たちと社会を隔てる現実の壁が原因で自殺してしまう・・・。
この映画の原題は「やればできる」。理想を貫こうとして悲劇を生んでしまったネッロ。だが、彼がやったことは元患者たちに自信を与えることができ、それを医師も元患者たちの症状が改善につながったと認めた。この映画がもたらす感動は、”人は変わることができる”ということ。患者たちの成長物語であるとともに、主人公ネッロの成長物語でもある。元患者たちのために懸命になりながら、恋人とのギクシャクした関係乗り越えようとする姿が感動的だ。こうした成功は一握りの事例でしかないかもしれないが、こうした思い切った行動がとれるのは大きなこと。日本で同じようなことが可能なのか、と考えるとそこには大きな隔たりがまだまだあるとも思うのだ。この映画は笑顔をくれて、ちょっぴりビターな感動をくれる。
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