■「ピアニスト/La Pianiste」(2001年・フランス=オーストリア)
●2001年カンヌ映画祭 グランプリ・男優賞・女優賞
●2002年セザール賞 助演女優賞
●2001年ヨーロッパ映画賞 主演女優賞
監督=ミヒャエル・ハネケ
主演=イザベル・ユペール ブノワ・マジメル アニー・ジラルド
カンヌ映画祭での受賞でいろいろと箔のついた映画である。雑誌のレビューをいろいろ見たけど、「痛い」映画という表現が目に付いた。これは巧い表現である。偏執的な母親(アニー・ジラルド)と同居するピアノ教師エリカ(イザベル・ユペール)は、知的でお堅いイメージの人。クラシック音楽界の古風で堅い規律、母親の干渉から、恋愛経験はもちろん性体験もない。性的に抑圧された生活からか、彼女は人とは違った性的欲望を持っていた。そこへブノワ・マジメル扮する青年からの求愛。彼女は彼に自分の性の秘密を手紙で打ち明けるのだが・・・というお話。
性癖がいいとか悪いとか言うつもりはない。この映画は寂しい独身女性を描いてはいる。だが、日頃皆と同じノーマルな仮面をつけて生活を送る現代人のコミュニケーション下手とかその裏側の孤独感という視点は、男性にも大いに通ずる話だと思うのだ。これは女性の話だからまだこんな映画にもできるし、観客も来る訳で、これが中年男性のSM趣味だの女装だの幼児プレイだのを扱った映画ならコメディにしかならない。これは人間関係に問題を抱えた現代人を描く「痛い」映画なのだ。エリカを通じて自分を見つめる、そんな映画だ。人間を見つめるリアルな視点は、フランス映画でしかなし得ない。エリカの家に深夜訪れた青年が暴行・性行為に及ぶあまりにも長まわしの場面。気づいたら僕は、視線こそスクリーンに向いていたが、顔はやや正面を避けていた。見つめる「痛み」故なのだけど。
イザベル・ユペールの力のこもった演技は確かにすごい。ブノア・マジメルは他の出演作を観ていないので何とも言えないが、フランス映画界にとっては期待があるのだろう。それにジュリエット・ビノシュとの間に子供がいるってんだから驚き。大人の女を惹きつける何かがあるのだな。
(2002年筆)