■「ムーラン/Mulan」(1998年・アメリカ)
監督=トニー・バンクロフト&バリー・クック
声の出演=ミンナ・ウェイ エディ・マーフィー
中国を題材として選んでいること、英雄的活躍をするヒロインであること、戦争を題材としていること。どれをとっても今までのディズニー映画に例がない。特に魅力的なのは主人公ムーラン。彼女は父親を守るために息子だと偽って戦場へ赴く。それは一方で、立派な女性として周囲に認められてはいない自分に、何かできることがあるかもしれない、という一途な気持ちからでもあった。軍隊では女性であるだけで相手にされなくなるのだが、彼女の努力は周囲にも影響を与えていく。そして国家を救う大手柄となるのだ。
彼女がただヒロイックな活躍をするだけなら、格闘ゲームの強き中国女性と変わらないのだが、ムーランは悩める”ごく普通の女のコ”である。ここは今までのディズニー映画のヒロインとは異なる。そんな彼女が自分にできることを懸命に模索する中で成功する、そこに観客は自分を重ねることができる。主人公だけでなく、ムーランを手助けするドラゴンにしても、従来のディズニー映画での万能の助っ人(「アラジン」のジーニーなど)とは全く異なる。万能どころか有能だと認められてもいない。こおろぎは「ピノキオ」のジミニー・クリケットのような保護者的存在ではなく、ばあさんに勝手に幸運のお守りにされただけなのだ。そんなどこか頼りないキャラクターたちの活躍に勇気づけられるこの物語は、世の儚(はかな)き者たちの応援歌なのである。その感動は、前に書いた「tokyo. sora」で健気に生きてる女のコたちの姿からもらった感動に似ていたりもする。
中国に題材を求めたことは世相の影響があるようだ。当時アメリカは中国に対する関心が高まっていた頃で、事実この映画もクリントンの訪中に合わせて公開された。またジェンダーについてもかなり意識している印象を受けた。エンドクレジットで流れるスケールの大きなバラード Reflection はクリスティーナ・アギレラ。これも感動を盛り上げるいい曲だ。挿入されるミュージカルナンバーもなかなかよい。できればカンフーアクションをもっと見たかった。
(2002年筆)
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