■「8人の女たち/8 Femmes」(2002年・フランス)
●2002年ベルリン映画祭 銀熊賞(最優秀芸術貢献賞)
監督=フランソワ・オゾン
主演=ダニエル・ダリュー カトリーヌ・ドヌーブ ファニー・アルダン
8人のフランス女優が共演するというだけでも贅沢なのに、それがクリスティやヒッチコックばりのミステリー、そして8人がそれぞれの心情を既成の曲に託して歌うミュージカルシーンまであるなんて!。この映画は、古き良きシャンソンを聴きながら、おもちゃ箱いやいや綺麗なドールハウスでお人形遊びをしているような映画。実に楽しい、しかも贅沢な楽しさだ。次に何が起こるのか、どんな新事実が出てくるのか全く見当がつかない。でもそこには女性が生きる上での様々な思いが織り交ぜられている。楽しいだけではなく、フランス映画らしい人間を見つめる視線もきちんとそこにはあるのだ。
古きよきものを大事にし継承していくことはよいことだ。「アメリ」を始め、今年観たフランス映画たちにはそのスピリットが感じられるものがあった。この「8人の女たち」は8人の新旧フランス女優共演ということだけでも、既に往年の映画への愛情が感じられる。2002年の新作にダニエル・ダリュー!と聞くだけでも驚きだ。しかし、実際に観てみるとこの映画に注がれた映画愛はただものではない。8人の登場人物はそれぞれ過去の映画の中にモデルにあたる人物がいる。わかりやすいところでは、ヴィルジニー・ルドワイヤン扮するスゾンは「麗しのサブリナ」のオードリー・ヘップバーン、フィルミーヌ・リシャール扮する家政婦は「風と共に去りぬ」のハッティ・マクダニエルがイメージされているそうだ。そして、エマニュエル・ベアール扮するメイド、ルイーズが憧れていたという元主人の写真はロミー・シュナイダーではないか!。
クエンティン・タランティーノが世に出てきて以来、映画を撮る人々がビデオで映画を観てきた世代(僕らがそうなのだけど)になってきている。例えば「ザ・ロイヤル・テネンバウムス」のウェス・アンダーソン監督もそう。演出する中でかつての名作たちへオマージュを捧げたり、アイディア自体をそこから得たりしている。このフランソワ・オゾン監督も同じ世代。彼も狂おしいまでに映画を愛してやまない人なのだ。
(2002年筆)