■「ハートブルー/Point Break」(1991年・アメリカ)
●1992年MTVムービーアワード 魅惑的な男優賞
監督=キャスリン・ビグロー
主演=キアヌ・リーブス パトリック・スウェイジ ロリ・ペティ
「マトリックス」の1作目にしてもそうだが、キアヌ・リーブスには成長物語がよく似合う。育ちのよさそうな風貌がそう思わせるのだろう。本作は若手FBI捜査官に扮し、まさにそうした役どころ。しかし彼は犯人を追いつめていながら人を撃てない弱さを克服できずにいる。メキシコまでパトリック・スウェイズを追いかけていながら、パラシュートなしで飛行機からダイブする命知らずのアクションまで展開しながら、結局逃がしちゃう。それが故に、観ていてハラハラしながらもイライラする何とも煮え切らない映画になっちゃってはいるのだが。FBIにしてみりゃ連続の失敗続きだし、上司には逆らうし・・・ラストまでよくもまぁ主人公が捜査官として仕事続けてこられたよなぁ、と思わざるを得ない。そこがこの映画をどうも手放しでほめられない理由になっている。僕はパトリック・スウェイズの方が(汚らしいけど)やたらかっこよく見えた。
だがこの映画の魅力は刑事ものとしての面白さではなくて、他のところにある。それはサーフィンとスカイダイビングの魅力をスクリーンに刻み込んだことだろう。サーファーたちがパトリック・スウェイズの家でパーティーするシーンがあるのだが、そこで一人が「サーフィンは最高だぜ、セックスよりも気持ちいい」と言う。スポーツでも音楽でもそうだと思うんだけど、すごくうまくいった瞬間やプレイしているときの一体感は、この台詞のような快感に通ずるものだ。僕自身もそう思う。これまでもサーフィン映画はたくさんあったし、スカイダイビングを見せ場とする映画はたくさんあった。でもそれは傍目からみたかっこよさだけを映したもので、やっている側の心境にまで深く触れたものはそれ程なかったと思うのだ。スカイダイビングのシーンでは、「これは神とのセックスだ!」と叫ぶ。表現は悪いかもしれないが、その感覚は観ている側に少しだけど確実に伝わっている。この映画を観てサーフィン始めた、という人けっこういるみたいだしね。
キャスリン・ビグロー監督は激しいアクションやサスペンスを得意とする女性監督。ちなみに製作総指揮を担当しているジェームズ・キャメロン夫人でもある。「ストレンジ・デイズ」でもそうだったように、カメラが主観的に動き回るのがこの映画でも活かされている。ところで、キアヌ・リーブス扮する若手FBI捜査官がコンビを組むのが、ゲイリー・ビジー扮するベテラン捜査官。残された手がかりから犯人はサーファーだという主張から、ゲイリー・ビジーはキアヌにおとり捜査を提案する。その際に「サーファーって奴らは人にわからないような言葉をしゃべる、得体の知れない連中だ。」と言うのだ。ゲイリー・ビジーはサーフィン映画の大傑作「ビッグ・ウェンズデー」で主人公3人組を演じた一人。彼がそんな台詞を吐くんだから・・・いいセンスじゃない!。
(2005年筆)