Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年

2013-05-04 | 読書
今回も話題を呼んでいる村上春樹の新作。深夜0時に販売が開始されたのが報道されたが、例によって冷めた反応のわが家族。別にそこまで気合いれて深夜に買いに行こうとは思わないまでも、そうする人々の早く手にしたい思いはよーく理解できる。「1Q84」を発売日に手にして帰ったら、「ここにも(同類が)いたのか」みたいな顔されたっけ。もぉー、理解者がいないんよ、ここには!というグチはさておき。

高校時代のグループから絶縁された主人公多崎つくるは、風貌が変わるほどに、生きることを絶望するに至る。そこから立ち直り、好きだった鉄道駅をつくる仕事につき、多くの友達もつくらずに暮らしていた。何故友達から関係を絶たれたのか、その過去に向き合わなければならない、2つ年上の彼女にそう言われた彼は、故郷名古屋、友人の一人が暮らすフィンランドへ旅立つ。そして彼が知る本当の理由とは…。

最初に思ったのは、随所にこれまでの村上春樹作品に登場したような場面が見られること。例えば、かつて大事な関係にあった人と再会して過去に向き合う話は「国境の南、太陽の西」、彼が繰り返しみる性夢は「1Q84」、地下鉄の駅についての記述は「アンダーグラウンド」…しかしそれらは決してマンネリだとは思わなかった。むしろこれまで積み上げてきたことをチラリと見せる余裕のような。

前作「1Q84」が一般にウケがよさそうな結末だったが、僕も含めて以前からのファンはこれで本当に終わり?と疑問に思ったものだ。それは村上春樹作品には珍しいある種のハッピーエンドだったから。しかも読んでいて昂揚感すら感じた。これは珍しいこと。「ノルウェイの森」にも代表されるように村上作品の結末は、決して歯切れのいいものではない。今回の「多崎つくる~」を読み進めていく途中で、友達がつくるに隠していた秘密や灰田君のその後、彼女とのこれからが明らかになって、前作「1Q84」同様幸せな結末を…と思ったら大間違い。読んでいて感じる数々の疑問すべてに答えてくれる訳ではない。でもそのラストがもたらす余韻に浸るのは村上作品の楽しみでもある。自分の過去に向き合うことは、この上なくカッコ悪いし、心に痛みを伴うものでもある。タイトルにある「巡礼」は、作中に出てくる曲名でもあり、かつての友人を一人一人訪ねて過去と向かい合う主人公の行動。それは辛い事実と向かい合うことにもなるが、その巡礼を終えるフィンランドの場面には、これまでの作品で感じたような何とも言えない喪失感はない。読者の背中をそっと支えてくれるような優しさがある。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
村上 春樹

文藝春秋 2013-04-12
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