Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

千年の恋 ひかる源氏物語

2013-05-06 | 映画(さ行)

■「千年の恋 ひかる源氏物語」(2001年・日本)

監督=堀川とんこう
出演=吉永小百合 天海祐希 常磐貴子 渡辺謙

配役にあたって
「光源氏を演じられる男優って今誰かいるかね?」
「いっそ宝塚のノリでやったらどうでしょう。」
ってな会話が東映社内で展開されたかどうかは知らないが、おそらく近いノリはあったのだろう。かくして東映女優のあまたさぶらひ給ひける正月映画のできあがり。

80年代のアニメ版(ちなみに光源氏の声は風間杜夫)のときは現嫁サンにずーっと解説してもらっていたんだよねー。恥ずかしながら「源氏物語」の知識が乏しい僕には、このテンポのよい2時間30分はなかなか楽しいものだった。お陰で自分の中の雑然とした「源氏物語」がすっきり整理できた気がする。これからいろんな事を知っていけばいいのだ(・・・と勉強不足の自分を正当化する)。

和歌を詠んで思いを伝え合うのは当時の恋愛コミュニケーションの重要な手段である。この映画のテンポのよさは、文語の世界と出てくる和歌をじっくり鑑賞する時間を与えない。それが残念だ。むしろ感情込めたナレーションでも入れてくれればよいのにと思うところも。道長が式部の部屋へ来て壁越しに和歌詠み合うあたりも、今の若いコたちは何やってんだろ?と思うんだろうな。ああいう情緒がいいと思うのだけれど。それに説明的な台詞がやたら多いのは気になった。
「藤壷様に私の子かどうか確かめねば・・・」
そんなこと口にしながら歩かねぇだろ。それに明石の入道が見た「お告げ」の仰々しい演出!(波をバックに行くのじゃぁぁ!)。あれは台詞で十分なのでは。

松田聖子の揚羽の君はやたら悪く言われているけれど、ディズニーアニメなんかだったら、登場人物の感情を説明するべく歌を挿入するのはよくあること。日本がやるとどうしてこうも浮いてしまうのだろう?(まぁ聖子は文字通り宙に浮いていたけど)。それにしても、吉永小百合の紫式部はお見事。知的で人間的で芯の強さを持つ式部像は実に魅力的。常盤貴子演ずる紫の上と抱き合うシーンがあーだこーだ言われているけど、あの後の物語をどうしようか式部は考えていた訳だし、囲われずにいることが幸福だと決断する紫の上と、道長の元を去る式部とが重なるいい場面だと僕は思ったんだけどな。常磐貴子もいいけど、僕は南野陽子(朧月夜)がよかった。

(2001年筆)

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人生、ここにあり!

2013-05-05 | 映画(さ行)

■「人生、ここにあり/Si Puo Fare」(2008年・イタリア)

監督=ジュリオ・マンフレドニア
主演=クラウディオ・ビジオ アニタ・カプリオーリ アンドレア・ボスカ ジョヴァンニ・カルカーニョ

イタリアでは1978年に精神病院廃絶法(提唱者の名をとってバザーリア法と呼ばれる)が制定され、患者を無期限に病院に収容することがなきなくなった。それは隔離するのではなく、自由こそが治療になるという考えに基づく。地域の精神保健サービス機関で治療を受け、実社会と共存させようとする世界でも珍しい試みだ。映画「人生、ここにあり」(どうも古くさく感じるの邦題・・・)は、実話に基づく物語。精神病患者が稼げる仕事をして社会参加と人間としても成長を果たす姿を、組合の代表である主人公ネッロの奮闘を描いた物語だ。バザーリア法の考えや人権面からの必要性もよくわかる。一方で患者の生活をフォローする組合やそれを支える職員の苦労、社会と患者たちのかかわりなど多くの問題もある。この映画はこうした厳しい現実を踏まえて、実話に基づいて生きていくことの素晴らしさを謳った秀作。

よき映画に大切なのはヒューマニズムであると思ってきた。もちろんエンターテイメントであることも、見せ物である映画には大切なことかもしれない。だけど、そこで語られるエピソードが人の気持ちや生き方を批判するようなものであるべきではないし、価値観を押しつけるようなものであってはならない。映画を通じて知る異国の現実。多少の美化や誇張はされているかもしれないけれど、そこから僕らは生き方を学ぶことができるはず。このイタリア映画「人生、ここにあり」は地味ながらも生きることを肯定してくれる強さがある。

労働組合で活動していた主人公ネッロは、その攻撃的な手法から組合から外され「協同組合180」にやってくる。そこは元精神病院患者の組合で、医師の元で薬を投与されながら封筒貼りなどの内職をしていた。個性的なメンバーたちを前にネッロは社会に貢献できる仕事を提案しようとするがうまくいかない。そんな時、床張りの仕事で寄木細工に抜群のセンスを発揮することになり、組合には仕事が殺到。ネッロはさらに活動しやすくするために、薬に依存しない別な医師の元で新たな事務所を開く。しかし、仕事を成し遂げることよりも社会と接する楽しさを覚えた組合員たちは、やっと獲得したパリでの大仕事に見向きもしない。そんな時、健常者の娘に恋した一人が、自分たちと社会を隔てる現実の壁が原因で自殺してしまう・・・。

この映画の原題は「やればできる」。理想を貫こうとして悲劇を生んでしまったネッロ。だが、彼がやったことは元患者たちに自信を与えることができ、それを医師も元患者たちの症状が改善につながったと認めた。この映画がもたらす感動は、”人は変わることができる”ということ。患者たちの成長物語であるとともに、主人公ネッロの成長物語でもある。元患者たちのために懸命になりながら、恋人とのギクシャクした関係乗り越えようとする姿が感動的だ。こうした成功は一握りの事例でしかないかもしれないが、こうした思い切った行動がとれるのは大きなこと。日本で同じようなことが可能なのか、と考えるとそこには大きな隔たりがまだまだあるとも思うのだ。この映画は笑顔をくれて、ちょっぴりビターな感動をくれる。

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色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年

2013-05-04 | 読書
今回も話題を呼んでいる村上春樹の新作。深夜0時に販売が開始されたのが報道されたが、例によって冷めた反応のわが家族。別にそこまで気合いれて深夜に買いに行こうとは思わないまでも、そうする人々の早く手にしたい思いはよーく理解できる。「1Q84」を発売日に手にして帰ったら、「ここにも(同類が)いたのか」みたいな顔されたっけ。もぉー、理解者がいないんよ、ここには!というグチはさておき。

高校時代のグループから絶縁された主人公多崎つくるは、風貌が変わるほどに、生きることを絶望するに至る。そこから立ち直り、好きだった鉄道駅をつくる仕事につき、多くの友達もつくらずに暮らしていた。何故友達から関係を絶たれたのか、その過去に向き合わなければならない、2つ年上の彼女にそう言われた彼は、故郷名古屋、友人の一人が暮らすフィンランドへ旅立つ。そして彼が知る本当の理由とは…。

最初に思ったのは、随所にこれまでの村上春樹作品に登場したような場面が見られること。例えば、かつて大事な関係にあった人と再会して過去に向き合う話は「国境の南、太陽の西」、彼が繰り返しみる性夢は「1Q84」、地下鉄の駅についての記述は「アンダーグラウンド」…しかしそれらは決してマンネリだとは思わなかった。むしろこれまで積み上げてきたことをチラリと見せる余裕のような。

前作「1Q84」が一般にウケがよさそうな結末だったが、僕も含めて以前からのファンはこれで本当に終わり?と疑問に思ったものだ。それは村上春樹作品には珍しいある種のハッピーエンドだったから。しかも読んでいて昂揚感すら感じた。これは珍しいこと。「ノルウェイの森」にも代表されるように村上作品の結末は、決して歯切れのいいものではない。今回の「多崎つくる~」を読み進めていく途中で、友達がつくるに隠していた秘密や灰田君のその後、彼女とのこれからが明らかになって、前作「1Q84」同様幸せな結末を…と思ったら大間違い。読んでいて感じる数々の疑問すべてに答えてくれる訳ではない。でもそのラストがもたらす余韻に浸るのは村上作品の楽しみでもある。自分の過去に向き合うことは、この上なくカッコ悪いし、心に痛みを伴うものでもある。タイトルにある「巡礼」は、作中に出てくる曲名でもあり、かつての友人を一人一人訪ねて過去と向かい合う主人公の行動。それは辛い事実と向かい合うことにもなるが、その巡礼を終えるフィンランドの場面には、これまでの作品で感じたような何とも言えない喪失感はない。読者の背中をそっと支えてくれるような優しさがある。

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村上 春樹

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