きょうは久しぶりにたっぷりの長雨だった。春を待ちに待っていた植物には命の水だ。オイラはこれ幸いと、往年の大スター阪東妻三郎主演の映画「破れ太鼓」をDVDで観る。戦後間もない1949年製作されたモノクロの松竹映画で、監督は木下恵介。教え子の小林正樹が共同脚本・助監督をしている。 バンツマといえば戦前から時代劇のヒーローだった。その彼が現代劇を挑戦するというから、本人も周りもずいぶんと勇気・期待が必要だっただろう。監督もあえてそれを挑戦するところに監督の「野心」が秘められている。
バンツマを観ていると、所々で田村正和にそっくり。いや、田村正和がそっくりというわけだ。たたき上げで苦労人の親父は、建設会社の社長となる。住まいは高級住宅街の田園調布で、家も当時としては洋風のモダンな内装が舞台だ。それだけに、親父は貧乏を抜け出し労働一徹に生きてきた自信が自分にも家族にも他人にも頑固を強要する。それに対し、戦後に育った子どもたちはそれぞれの道を勝手に歩いている。だからそこには、当然に反目もあり葛藤もありへたすると家族崩壊・会社倒産の危機もはらんでいる。
(yukiko arikiさんのwebから)
戦後すぐの家族らしく、子ども6人がそれぞれ気ままに生きているのも、頑固おやじの経済的基盤の上にある。だから、みんな親父の命令にはいっせいに服従する場面がコミカルに出てくる。脚本の当初は喜劇を意識していなかったが、「バンツマの大御所的風格を逆利用したコミカルなものへと変貌」していったという。
(我が家・楽の釜盥ブログより)
そこへなんと、青年役の宇野重吉が婚約者が決まっていた娘に結婚したいと割って入っていく。それに賛意を示す妻が、反対する頑固おやじとぶつかり家出をしてしまう事態に。老練な宇野しか知らないオイラには青春に生きる貧乏画家の宇野の映像とがハレーションを起こしてしまった。
(我が家・楽の釜盥ブログより)
そこへ、宇野の家族である東山千恵子が演ずる母とバイオリン弾きの父役の滝沢修とが二人を応援する。つまり、封建的気質のバンツマと自由奔放な宇野家族とを二項対立させることで、バンツマ家族の矛盾を激化させようとするしかけである。それで、バンツマの家からみんなが離れていこうとしたとき、窮地に立ったバンツマは、冬の北海道でかつて苦心・孤立した労働を思い出す。
(garadanikki blogから)
「破れ太鼓」とは、音が鳴らない、お金にならない、という落語の落ち(鳴らない)につながるが、映画の中身としては、相手や自分の心が破れているのに気づかず、どんどん不協和音を鳴らし続けるさまをいうようだ。そのことを、次男(木下恵介の実弟・忠司)はバンツマに伝える。それを機に、バンツマも和解に活路を見出していく。破れ太鼓・オルゴール・劇中歌とが呼応して大団円を迎える。
往年の大スターの沢村貞子・森雅之・村瀬幸子らが続々と登場して贅沢にフォローしている。全編にわたって木下恵介の人間に対する優しさ・温かさがみなぎる。黒澤明と双肩と言われた恵介だが、彼の庶民へのまなざしは確かだ。戦争が終わった自由の息吹が木下忠司のピアノとともにコミカルに躍動する。
今の時代から見ると、粗さやダサいところも気にはなるが、当時としては木下監督の斬新な挑戦がところどころみられる。これがテレビドラマにも再演