ダビンチさんからの課題図書は夏ではなく秋になってやっと読み終えた。といっても、新書版で素人の立場をよく勘案してくれた内容だった。著者は科学番組のテレビで活躍している竹内薫さんなので、難しいサイエンスブックかと構えていたが、見事にかわされた。それが、『99.9%は仮説 / 思い込みで判断しないための考え方』(光文社、2006.2) だった。
著者は、「世界は仮説でできている」とし、「あたりまえだと思っている常識や習慣や定説も、ただの仮説にすぎない」と強調する。そして、「頭の固い人は、先入観や固定観念にしばられて、思い込みでものをいいます」と迫ってくる。このところ、脳細胞が停滞しているオイラを見据えるかのような突込みだ。
頭の固い人は、「自分の思い込みを最優先し、それに反する考え方や都合の悪いデータを無視します」と畳みかける。しかし同時に、「科学は、いつでもまちがいを潔く認めるものなのです」と、救いの扉を諭すことを忘れない。まるで、求道者のような語り口で寄り添ってくれるのがスゴーイ。
科学に造詣の深いダビンチさんは、このことをオイラに言いたかったのかもしれない。同時に、本書は40万部を超えるベストセラーとなったのももっともだ。ネコ好きの著者は、ミステリー作家の顔もあり、幅広い柔軟な思考の持ち主であることも紙背からじわじわと伝わってくる。
「一つの仮説ですべてが説明できる」、という従来の科学的常識をアインシュタインは「相対性理論」で逆転させた。つまりそれは、全体を統一する絶対的な基準というものはなくて、状況に応じた「相対的な基準」しか存在しない、というわけだ。著者はこのようにわかりやすく説明。これは、物理学だけではなく哲学でもあると、まずは納得する。
著者はさらに、評判のラーメン屋にいったときの例を出してきて、その味は食べる人によって微妙に違うが、そこに相対的な「視点の設定」があるからだと言う。この例では味覚だが。相対性理論がちょっぴり近づいてきたぞ。「すべては仮説に始まり、仮説におわる」という禅問答のような著者の主張がわかりやすく流れているのが本書の魅力だ。