日本の神話にまったく関心が無かったので入門書を取り寄せた。それが、坂本勝『はじめての日本神話』(筑摩書房、2112.1)だった。さらにそれを補強する意味でイラスト・マンガ満載の谷口雅博監修『一番よくわかる・古事記』(西東社、221.7)と、沢辺有司『いちばんやさしい古事記』(彩図社、2020.7)を脇に置く。
「古事記編纂の目的は、天皇家が神の子孫であることを示し、統治の正当性を主張するためであった」と、谷口氏の本で明確な説明があった。太平洋戦争終結まではこれが現実だった。古事記は、上・中・下巻の全三巻で、上巻は神話、中・下巻は天皇の事績を示し、国内向けに編纂されたので、万葉仮名で表記された。
いっぽう、国家的な大プロジェクトの『日本書紀』全30巻は、中国向けの歴史書だったのですべて漢文で記されている。だから、神話部分は1~2巻のみの扱いだ。谷口氏ら神話研究者は、神話そのものをコンパクトにまとめ上げていて、イラストもわかりやすい。しかし、俯瞰的な神話や古事記の位置はわかりにくい。
その意味では、アウトローのような沢辺氏の本は神話・古事記の位置づけが客観的で的を得ている。それらの傍証を得ながら、坂本氏の神話論はわかりやすい入門書だった。坂本氏はこの神話・古事記の世界がもたらす現代的な意味合いとは何か、「今ここにいる」とは何かという世界の根源について半分以上のページを割いているのが特異だった。
坂本氏は、大きな時代の転換期の中で、何が変わっていくのか、変わってはいけないものは何なのか、そういう本質的な問いかけが『古事記』にあるという。その根底には、人間と自然との関係だったのではないかと問う。「神話の関心がより自然の側に向かっていたのは、人知を超えた自然の力が絶大だった」ため、「日本の古い神々がそうした自然の中に棲息していたのはそのためです」と提起する。
西洋の神は唯一絶対の存在の傾向があるが、日本の神は悪さも戦争もする弱点だらけの存在だ。人間的ともいえる。しかも、「八百万の神」と言われるくらい神様の数も多い。世界でも珍しいくらい、他の神を否定する一神教ではない多神教の世界。その柔軟性というか、世俗性というか、それで救われる・縛られないことも少なくないことは確かだ。
沢辺氏は、古事記や日本書紀の中に「東国」のことや「富士山」についての記述がないことを指摘している。その理由は、朝廷の支配圏外であったということで、オイラがこだわっているまつろわぬ敵・「日高見国」の存在があったからだと思う。
神話の物語についても、解釈や背景にはいろいろな興味ある情報があるが、初心者のオイラにはまだ消化しきれない。今回の読書で神話の流れについてはだいぶ整理されてきたことは確かだ。手始めとしての漫画やイラストの意味もばかにできない。未解明の背景が多く、神話・古事記の迷宮の深さが魅力的だった。