GITANESは意外に苦くない。
それとは無関係に・・・。
(ストーリーは唐突に始まる)
K氏「で、さあ・・・。」
微妙な空気がカウンターに漂い始めた。
コーヒーを既に飲み終えているK氏は、水が入ったグラスに口を
付け、やや身を乗り出してまた話し始めた。
K氏「本来『自動』になっているスイッチが、」
私 「はい?」
K氏「『手動』になってたの。」
K氏は今年で60歳ぐらい。ある種の業務をこっちから委託
している男性である。
私「はい。先日聞きましたね、その話。」
K氏「それでな・・・。多分それはJ社のT君だと思う。」
私「はあ・・・。」
K氏は苛立たしそうになおも喋る。
K氏「あんたなあ・・・。レバーが『手動』になってたのが
トラブルの原因やで?!」
私「そうかも知れないですね。」
K氏は私を鋭く指差している。声の調子もどんどん上がっていく。
カウンターの向うのマスターが、やや目を逸らした。
K氏「それがT君かも知れんって言ってるのに、
何も思わんか?!」
コーヒーを飲みながら、私は話しを聞く。
空いているとは言え、さして広くもない喫茶店で、こんなに
大きい声で喋らなくてもよさそうなもんだ、と感じながら。
私「別に何も。」
K氏「はぁ?!」
さらに声を荒げる。
K氏「A警備保障はあのスイッチは触らん。俺も触ってない。
あんたじゃなければJ社の人間、多分T君だろ?!
そうだろ?!なあ?!」
コーヒーを飲み終えた。今日もなかなか濃い目で美味かった。
私 「ボクじゃないですよ。」
K氏「じゃあ、T君だろ?!」
私 「知りません。」
K氏「知らん?!状況からして、T君以外にいないだろ?!」
コーヒーがなくなったので、水を飲んだ。
私 「知りません。T君かどうか。」
K氏は目を大きく見開いて私の顔を見ている。
私 「T君かも知れんけど、それを突き止めてどうするんですか?」
K氏「はあ?!」
私 「T君が『ボクも知りませんけど』って言ったら?
警察みたいに捜査して突きとめるンですか?」
K氏「そんなことは別に、」
私 「特定できたとして、どうするンですか?
『今後このようなことがないようにしてください』でしょ?」
K氏「さっきからそういうことを、」
私 「いいじゃないですか犯人探しは。」
K氏「トラブルがあってもいいってことか?!えぇ?!」
私 「いや、犯人探ししなくても再発防止はできるでしょ?」
K氏、激昂する。
K氏「あんたなあ!あんたはいつもそうや!こっちがイライラ
してハラワタが煮え繰り返ってるのに、顔色一つ変えんと!」
私 「怒るテンションを合わせろって言われても、そんなこと
できんでしょうが!」
あ、ちょっと声が大きくなってしまった。
喫茶店のマスターは完全に背を向けた。
私の上司であるオーナーが制止する。
オーナー「ちょっと待て。あのなあ・・・。」
という流れの出来事を書くと、さぞ大事件に発展しそうな
感じにも受け取られるかも知れないが、
本当に日常の1コマに過ぎないなのである。
数時間後にはお互い普通の調子で会話している。
まあ日常生活にこの場面のような、ちょっとした苦味もある方が
コクがあって結構だ。
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