GITANESを吸いながらの面接は圧迫どころではない。
それとは無関係に・・・。
最近むちゃくちゃな(就職)面接があると聞く。
セクハラ・パワハラまがいだったり、家族のことをとやかく言われたり
ひどいのになると履歴書を目の前で破かれて心境を尋ねられるなど。
面接する側からするとストレステストのつもりなのかも知れないが
受ける側からすると弱みを握られたうえ孤立無援の時間帯なのだから
たまったものではない。
そんな面接員(『面接官』ってよく言われるが、『官』って役人のことじゃないのかね?)
に出会ってしまったらきっちりその場で反撃したいところだが、
折角面接までこぎつけた機会なのに・・・という事情なんだから
泣き寝入りする人も多いだろう。
私が就職活動したのは昭和63年だから、就職戦線は狂乱の時代
究極の売り手市場(学生有利)の時期だった。
一人の学生にいくつもの企業から内定が出たり、説明会や面接に赴くと
結構な額の現金が入った封筒を渡された(交通費という名目で)。
よその会社を訪問できなくするために「拘束旅行」と言われる入社前研修に
海外へ連れて行かれる例もあったようだ。
私が会社訪問したのは10社ほど。
売られた喧嘩を買ってしまって、「お前んところなんか誰が行くか!」と
席を蹴った某有名企業もあった。懐かしい。
そんな不真面目な学生にも採用内定が出るような、変な時代だったのだ。
最もユニークだった会社は、それほど大きくない会社だった。
ローカルの就職情報誌をパラパラと眺めていて発見した会社で
人事部長のアポを取り、普通に会社訪問した。
就職前年の初夏だった。
ソファーに座らされ数分雑談。
ところがこの部長さんの話の内容がなかなか雑談から発展しない。
これではバス停で出会ったおじさんと学生の世間話で終わってしまう。
採用について切り出したのはこっちからだった。
私「ところで、○○というローカル就職情報誌を読んだのですが・・・」
部長「あー、はいはい。ねー、あれねー。」
かなり眠そうだ。
私「あのう、もうかなり採用は進んでらっしゃるんですか?」
部長「いやー、まああれは、ウチはあれだ、ウチは随時募集だから。
そんな大それたもんじゃないのよ。」
私「あ、そうですか。」
また話が途切れる。
私「で、本日は履歴書と成績証明書、卒業見込み証明書を持参しております。」
部長「あ、そう。一応見ようか。」
一応かい。
部長「ほう・・・ほうほう・・・ほう・・・なるほど。」
反応が薄い。
部長「はい、読みました。どうぞ。」
とそれらの書類を返された。ええ?返すの?
私「え?そう来ますか。」
部長「何が?」
私「いやいや、返されるということは『採用されない』ということでいいんでしょうか?」
おじさんは腕組みを解いた。
部長「SGCさんね、もういくつか内定は出たの?」
私「そうですね。」
部長「それで、この後も何社か回る予定もある?」
私「具体的な予定はありませんが、興味のある会社はあります。」
部長「そうか・・・。SGC君早まるな。」
私「はい?」
部長「世の中は広いぞーーー。ウチより立派な会社なんて数えきれないほどある。」
私「はあ。」
部長「まあ、この席で結論を急ぐとか、まあ、早まりなさんな。」
私「ええ?!」
部長「世の中は広いぞーーー。もっといっぱい会社を見て回っておいで。きっといい会社がいっぱい見つかるよ。」
私「えええ?!」
部長「でな、それでもいいところがない、どこにも採用されなかった って結果になったらウチにおいで。」
私「はあ。」
部長「早まるな。もし入る気になるならウチはいつでもいいから。」
いくつか会社を訪問して、このようなことを言われたのは初めてだった。
どの会社も頭数を欲しがっていた時代だから、面接の当たりも柔らかいし、
電車代に2000円ほどしかかかっていないのに、その10倍ぐらいの金額入りの封筒を渡したり
(これも大学によって待遇の差はあったようだが)、とにかくあの手この手で
学生を引き留めようとしていた時代に、
「もっといい会社が山ほどあるぞーーー」なんて人事部長が言い放つ会社だ。
これを面白い会社と言わずになんと表現しようか。
私「面白いですねえ。」
部長「んーーー?」
私「決めました。こちらでご厄介になります。」
部長「いやいや、だから早まるなと・・・」
私「いや、面白い。ぜひこちらで。」
部長「ええ?!本当に来るのーー?」
私「はい。」
部長「いやあ、突然のことで・・・。そうか、じゃあ今日から働くか?」
私「いやいや、今日からってことはないでしょう。春からお世話になります。」
というやり取りがあった。
それからまったく音沙汰なく8月になった。
電話した。
私「お久しぶりです。先日うかがったSGCです。」
部長「ああ、どうも。就職決まったあ?」
私「いや、だからそちらでお世話になるって申し上げましたよね?」
部長「ええ、本当に来るの?」
という電話のやり取りが毎月続いた。
春になった。
私「4月1日から行きますよ。よろしくお願いします。」
部長「あれ、本気のようだねえ・・・。」
部長は15年ほど前に引退した。
私は今も、その会社で働いている。
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