GITANESなど当然持っていなかった。
というより、知りもしなかった頃。
それとは無関係に・・・。
買ってもらったばかりなので
兄や姉のものと比べると明らかにまだツヤはあるものの
カッチカチのランドセルを背負い、家を出る。
私「行ってくるわ!」
母「はいはい。」
集団登校や親の付き添いも必要なかった昔の田舎町。
集団登校ではないが、なんとなく誘いに来たみっちゃんと
タケシが家の前で緊張しながらニコニコしている。
入学式もすでに済み、今日からは普通に小学校に通うのだ。
家を出てすぐ小さい小さい商店街があって
そこを通り抜ける。
まだ開店前の時間帯なので、それぞれの店もシャッターが下り
顔なじみの大人たちとは誰も会わない。
左に曲がる。
同級生の本屋の前で、その家のK子と出会う。
「おっす!」「オッス!」
くれぐれも気をつけるようにと何度も何度も親に注意された、
目的地までの道のりに唯一の横断歩道と信号機。
慎重に青信号と道路の左右を確認し、素早く駆ける。
小さい八百屋の前を通り過ぎるあたりになると
学校へ向かう小学生だらけで賑やかになる。
川にかかった橋を渡る。
鯉やらフナやらがうじゃうじゃ泳いでいる。
タケシが橋の手すりから身を乗り出して川面を眺める。
「なあ、今日もフナだらけや!」
身が軽いのがタケシの取り得だ。
「あ、ほんまや!フナだらけや!」
「川で遊んでる方が楽しいけどなあ・・・」
なんとなく不安げな空気も漂う。
「川もたのしいけど、がっこうは楽しいらしいぞ。
お父ちゃんが言うてたからなあ!」
そんなものはウソだと3人とも解ってはいたのだが、
幼いながらも自分に「そうだそうだ!」と言い聞かせないと
学校に行くことなどイヤになってしまう。
本能的に気付いていた。
「そやな。まあ、行かんとアカンのやから
楽しいはずや。みんな行ってるんやから楽しいはずや。」
「そや、そや!」
橋を渡りきる。
柳の木がずっと続く。
桜の木も、校門までずっと続いていた。
タケシ「重いなあ!こんなもん6年生まで担いで歩くんか?!」
みっちゃん「そのうち軽くなるやろ。身体大きいなるし。」
私「3人バラバラの組(クラス)やなあ。」
タケシ「そうや。」
みっちゃん「そうや。」
私「終わったら一緒に帰るか?」
みっちゃん「そやな。」
タケシ「うん。じゃあここに来るか。フナも見えるし。」
みっちゃん「タケシ、フナ好きなんか?」
タケシ「フナは好きやないけど、学校で勉強するよりは好きや。多分。」
川沿いのその道は桜の花びらでピンクに染まっていた。
みっちゃん「これ、花ですべるなあ。」
タケシ「なんやこの、そこら辺にある花は?」
私「え、桜やったっけ?」
みっちゃん「ああ、そうそう。さくらってお父ちゃんが言ってた。」
タケシ「さくらかあ。ジャマやなあ。」
みっちゃん「すべるからジャマやなあ。」
タケシ「川の水もさくらだらけで、フナも見えへんやんか。」
私「お前、そんなにフナ見たいか?」
タケシ「テレビがあったらテレビ見るけど、フナしかおらんから
フナ見るしかないやろ。」
タケシ「お前、ちょいちょい言うてることがわからんぞ。」
校門のそば、ひときわ大きい桜の木からも
花びらが絶えずヒラヒラ吐き出されていた。
大きい枝の下を通過すると、そこは小学校である。
タケシ「トンネルやなあ、さくらの・・・。」
みっちゃん「うん・・・。」
私「学校なあ・・・。楽しいんやろか?」
タケシ「まあ、一日中フナ見てるよりは楽しいやろ。」
みっちゃん「なんか、タケシはええなあ。いつもそんなんで・・・。」
小学生の足でも10分で着くこの距離だったが、
それ以降毎日スリリングだったような気がする。
もうあれから随分時間が経ってしまった。
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