実は、GITANES休止はGITANES開始よりラク。
それとは無関係に…。
スーツ姿が板についていない若い男数人とすれ違った。
おそらく学生だろう。表情はみんな暗くなかったから、
多分単純に内定先から呼び出されたのかもしれない。
タバコの匂いもしないこのスーツ集団を懐かしい感じで見ていた。
タイトルの「ヤングSGC」は「ヤング島耕作」からパクッたものだ。
20年少々昔の4月。
時代が少々狂っていた昭和の最後の年は、
まあ、余程のことがない限りどんな学生でも就職することができた。
それも内定が6つも7つも貰えるというケースも珍しくはなかった時代だ。
青田買いに歯止めをかけようと、企業は形式上「協定」を結び、
解禁日(8月21日?)までは採用活動を手控えていた。
表立って会社訪問もそれまで受け入れないし、もちろん入社試験も
行わない。
もちろんそんな協定を律儀に守っていては人材獲得競争に遅れを取る。
で、企業側は「会社を訪問させないが、外では会う」なんてことを
普通にやっていた。
記憶にはなかったが、某証券会社に採用関係の資料請求を出したらしく、
人事部の方から電話(自宅の固定電話だ。)がかかってきたのは
3月の終わりだったか。
某「是非お会いしましょう」
私「はあ・・・。」
某「○○駅前の○○という喫茶店で会いましょう。」
私「はい・・・。」
某「私どもの○○という者が参ります。貴方の学校のOBです」
私「あ、そうですか・・・。」
某「では、4月5日の13時ということでよろしくお願いします。」
OB訪問という形の、企業と学生の第1次接触だ。
グレー無地のスーツを着て、紺色系のネクタイを結び
「肩が凝るなあ・・・。」なんて言いながら、指定の喫茶店へ。
どういう訳か気が進まない。しかしコッチから資料を請求して、
先方がわざわざ出向いてくれるのだ。失礼があってはマズイ。
ここはひとつ、きちっとやろうと、
待ち合わせ時間の25分も前に喫茶店に着いてしまった。
どんな先輩が来るのだろうか。その先輩はもう活躍しているのだろうか。
15分経過。そろそろだな。
余裕かまして本を読んでいる場合ではない。
フレッシュな芝居をうたなければ・・・。
20分経過。
フレッシュって、どんなのだっけ?
あ、緊張している芝居でもしないといけないなあ・・・。
25分経過。約束の時間だ。
ちょっと緊張芝居を始めるのが早すぎたか・・・。飽きてきた。
自分の敬語は大丈夫だろか?30分ぐらいならなんとか持つが・・・。
30分経過。
あら、先方が遅刻だ。こんなこともあるのだなあ。
35分経過。
ほほう。
45分経過。
約束間違ったっけ?
コーヒーおかわりするべきか?1杯しか頼んでいないけど。
50分経過。
25分早く来て、25分待たされた訳か。
55分経過。
ネクタイを外す。シャツのボタンを開ける。
どうやら約束を間違ってたみたいだ。帰ろう。
1時間経過。男が入ってきた。
某「○○大学の○○さんですか?」
私「はい」
某「ああ、良かった~。私○○證券の□□と申します。」
私「時間間違って・・」
某「いや、13時の約束でした!ところで・・・。」
私「まあ、そこへ座り。」
某「・・・。」
某「○○さんは金融志望なんだね。で、どうしてわが社に興味を
持ったのかな?」
私「いや、興味なくなった。」
某「は?」
私「聞こえんか?」
某「・・・」
某「○○さんは、どんな業界が第一志望なの?」
私「アパレルかな。」
某「アパレル?!やめときなよ。あんなの名前だけ雰囲気だけカッコイイ
業界だよ?!ダメだよ。ごまかしだよ。」
私「あのな。」
某「?」
私「まあ、ええわ。反論する気も起こらん。」
某「ところで○○さん、ゼミはどこ?」
私「Mゼミだけど?」
某「なんだ~!!ゼミまで一緒!俺先輩だよ。ゼミでも。」
私「そうすか。」
某「そうだよ!で、お前さあ・・・。やっぱり世界を動かしてる業界の
国内トップであるわが社ではね・・・」
私「待てコラ。」
某「?」
私「お前にお前って言われる筋合いはないぞコラ。」
そこからなぜかお互いの「企業」や「仕事」というイメージについて
議論が始まってしまった。
某「いや~○○君。言うねえキミ。」
私「『君』付けか?」
某「いやあ、気に入った!俺、OB訪問の学生と話したの○○君でちょうど
10人目なんだけど、まあこれだけ歯向かうというかボロクソ
言われたの初めて!」
私「なに喜んでんねん?」
某「ねえ、もうこうなったら面接においでよ!」
私「イヤだ。行かん。」
某「おいでよ!まあ面接する担当によって完全に評価分れそうだけど」
私「なんやねんそれ・・・。」
某「ホラ、これ見て。評価シート。ここ、○○さん、Aの上、S評価に
しておいたよ。」
私「アホくさ、帰るわ。」
某「あ、レシート頂戴!」
私「コーヒーぐらい自分で払うわい。」
某「どうして?経費で落ちるから大丈夫だよ?!」
私「お前に待たされた時間、コーヒー1杯で買われてたまるか。」
数日後、某は電話を寄越して
「大阪本社に遊びにいらっしゃいよ~」などと誘ってきた。
「世の中にお前ところの会社しかなくなっても、行かん。」
今の学生諸氏とは比べ物にならないほど、就職に関しては甘い時代だった。
だから若気の至りであんな受け応えを平気でやっていたのだろう。
(今でもあんまり変わっていないが)
志望通り、現在アパレル的な会社で働いている。
そして、某証券会社は今でも業界に君臨している。
あの先輩は元気なのだろうか?
今でも、板についていないスーツ姿の若い人を見かけると、
あの先輩のびっくりしたような顔と冷めたコーヒーを
思い出す。
先輩あの節は失礼しました。
私、今でもネクタイが苦手であります。
あ、先輩。
名前、何だっけ?
(ヤングSGC その1 終わり)
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