緑色のモンキチョウ 。南米ペルー、アンデス高山帯4300mで高山蝶を採集。その弐。
2005-1-1 (土) アンデス高山帯4300m。晴れたり曇ったり。
辛抱強く空をあおいでチャンスを待つ。やがて予想どおり雲の切れ間からカッと日がさすと、強風は徐々に弱まってきて、急速に気温が上がってきた。
まったく生き物の気配がなかった荒れ地に、魔法みたいにどこからともなくポツポツと蝶が現れ、低く速く飛び始めた。昔、北インドのカシミールラダック高山帯で激しい高山病に悩まされながらハードウィッキウスバやシャルトニウスウスバを採集したときとそっくりだ。
高度計ではこの付近は標高約4200~4300m。蝶たちの動きは意外に速い。実際にはさほど速くないのかもしれないが、こちらが思うように動けないせいか、とても速く感じる。低く、速く飛ぶ蝶はとりにくく、平地なら容易なのだが 待っていてもネットの射程距離にはなかなか入ってこない。
かなりの高山帯なので高度順応不十分なまま追いかけることになり、たちまち息切れ、呼吸苦、眼の奥が痛くなるような頭痛、吐き気など高山病発症の危険がやってくる。
偶然、近くにきた蝶に思い出したようにネットを振るが空振りばかりでイヤになる。飛んでいる蝶が無理なら止まっている蝶を狙いたいのだが、あいにく吸水にくる湿地や、吸蜜する花がほとんどない。蝶は見えるが全く採れないという最悪のパターン。
クソ。くやしい。悔しい。
絶望的な気持になったが、遠くにアンデス高山帯に棲む野生動物リャマの斃死死体を発見した。呼吸を整えながらゆっくりゆっくり歩いてやっと近づくと、そこには夢のような光景があった。
リャマのなかばミイラ化した死体とその周辺に散逸したパーツや獣糞に多数の高山蝶がきていたのだ。
リャマのミイラ化した死体やその周囲の草地に、緑色のコリアス C. mossi モッシミドリモンキチョウ はじめ 黄色いコリアス C.euxanthe ユウクサンテモンキチョウ、褐色のジャノメ、チチカカヒメシジミ Madeleinea Sp. ? ほか数種のシジミ、セセリ1種、高山性シロチョウ2種が多数集まって盛んにストローを伸ばしていた。
千載一遇のチャンスと思い、これらの蝶をせっせと採集し大型三角紙に放り込む作業を開始した。
陽が陰ってくると、蝶たちは三々五々飛び去るが、近くの草地、岩の上などに静止する個体も見られ、これらの撮影は容易であった。
モッシミドリモンキチョウ( Colias mossi Rothchild ) はコリアスとしてはとても珍しい灰緑色の翅裏面で、表面は暗灰色を帯び、翅表の斑紋や色調は多数の展翅標本を見ると実に変異が大きい。低く速く飛ぶ時は灰緑色の蝶に見える。止まっているときはまさに緑色のコリアスに見える。
帰国後、C.mossi について調べようとしたが、これまでのところはとても珍しい蝶のようで、ダブレラの大図鑑、世界のコリアス図鑑はじめ、いくつかの書籍にごく簡単な図示解説があるのみでそれ以外に参考になるような情報はなかった。
この項、続く。
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