北海道昆虫同好会は北海道の昆虫を中心に近隣諸国および世界の昆虫を対象に活動しています。
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日本産ウラギンヒョウモンは2種類か ??
私は子供の頃からそのあたりに飛んでいるウラギンヒョウモンが好きだ。
なんといっても裏面のギラギラ銀紋が格好いいし銀紋の変異も多彩で面白い。
しかし、モンゴルへ通い始めると、ウラギンヒョウモンとおぼしきヒョウモンチョウたちには、あまりにも個体変異がありすぎて正直言ってわけがわからなくなった。
やむを得ずこれらのヒョウモンたちを♂翅表の性標の数で三つに分類した。
性標3本はコレアナウラギンヒョウモン(Argynnis coreana)、2本がウラギンヒョウモン(A. adippe)、1本はニセウラギンヒョウモン( A. xippe )と分類して 拙著モンゴルの蝶類 Vol. 2 タテハチョウ科 p.122 で解説した。
もちろん、日本産ウラギンヒョウモンも性標は二本。
当時、これですべてが片づいたと思ってはいなかったが、けっこうわかりやすいのではないかと密かに悦にいっていたものだ。
ちなみに私が参考にしていたロシア・東欧・ヨーロッパ・中国など多くの図鑑では最近の出版も含めてこれらヒョウモンに対し Argynnis を用いるが、日本および一部の中国の図鑑のみ Fabriciana を用い、USAではもっぱらSpeyeria を用いているのは興味深い。
どれが一番妥当なのか検証するのは私には荷が重くて無理。
先般、DNA解析などをもとに日本のウラギンヒョウモンは実は3種などという話があった。
それがやや下火になったと思ったら、最近、交配実験結果などをもとに日本産ウラギンヒョウモンが実は A 型 と B型 2種あるのではないかという話が出てきた。
膨大な多方面からの精力的な検討の結果、2種ではないかというのだ。
あまりにも膨大な検討結果の論文は、大著すぎて老眼がかなり進んだ私には最後まで読む気力がおきず中途で断念。
それでは、 A 型 と B型とは外見的にどこが違いがあるのかというと、詳細な解説図を見るとますますわからない。
プレゼンテーションの仕方に問題ありか。
2016年に出版された完本北海道蝶類図鑑 p47をみてやっとわかった。
ウラギンヒョウモンA型は裏面後翅6室内側が黄褐色、対するにB型は緑褐色であるというのだ。
モンゴル産ウラギンヒョウモン類とくらべるとあまりにも些細な違いである。
さて、アザミの花に吸蜜中の北見市近郊産ウラギンヒョウモン裏面がよく写っている写真があったので A型か B型か考えてみた。
これは裏面後翅6室内側が黄褐色なのでA型でしょうか。
これは裏面後翅6室内側が緑褐色なので B型でしょうか。
実は これらはすべて同一個体です。光の当たり具合によって黄褐色にもなり緑褐色にもみえます。
従って野外では 2者の区別はなかなかむずかしそうな気がします。
そのうち、日本産ウラギンヒョウモンの標本箱を探し出して展翅標本ではどうなのか調べてみたいと思います。
ただ、世界的視野でこの類のヒョウモンシリーズに手を出すのは相当な泥沼にはまって行かざるを得ない覚悟が必要かも知れません。
ご検討をお祈りします。
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シボリアゲハ亜種群と近縁種たちの概観
朝日純一
昨年(2016年)のミャンマー行きは本来なら2015年に行こうとして2014年9月の大手町フェアの会場でタケパラダイスカンパニーの竹中和彦さんに打診した。
ところが、翌年のツアーは既に定員(竹中さん以外に7名)一杯の申込みがあって「再来年(2016年)なら・・・」ということで実現した。
昨年のツアーメンバー7名のうちの2名は一昨年に続いての連続参加であった。
これは竹中さんが「いつもの9月中旬のツアーだと♂は多くいるが♀が少ないので、♀が多く見られる9月末に行こう」と計画したことに負うが、やはりシボリアゲハという蝶が日本に棲息しないにもかかわらず、その色彩斑紋が日本で随一の人気種ギフチョウに相似していることから、この蝶に親しみや憧れの気持ちを抱いている日本の蝶愛好家が多いことを物語っているであろう。
竹中さんによれば今秋(2017)のツアーももちろん満杯だという。
私は1983/84年の米国留学終了後の帰途、カンタス航空の南太平洋路線でタヒチ、フィジーなどを廻りそれまで追いかけてきたリュウキュウムラサキを採集したのを最後に、折からのバブル経済の進行とともに仕事が忙しくなって海外遠征を中断。
再開したのは独立して自前の法律事務所を開業した1990年に初めてサハリン(樺太)に遠征した年まで飛ぶことになる。
以来四半世紀以上、私の興味はサハリンを中心とする旧北区の蝶に注がれることになった。
しかし、還暦を過ぎ、歳の近い同好者の物故者も次第に増え、人生の終盤を嫌でも意識せざるを得ない時期を迎えると、「一度は生きて飛んでいる姿を見たい」と思っていた蝶たちに元気なうちに会いに行っておきたいとの考えが次第に強くなり、その皮切りに選んだのがシボリアゲハであった。
先にも書いたが、シボリアゲハはギフチョウに色彩斑紋が相似していて、しかも3本の尾状突起を有するその優雅な姿から、トリバネアゲハ、モルフォチョウ、アグリアス(ミイロタテハ)と並ぶ日本人の間で普遍的に人気が高い海外美麗種であるといえよう。
こうした蝶への探訪を実現するには、時間、お金、体力の3つが揃っている時期に決断しなければならない。
私のミャンマー行きはこの「人生の思い出づくり」の第一弾として選択したものであった。
最後に今回感激の遭遇を果たしたシボリアゲハについて若干概説めいたことを記して探訪記の締めとしたい。
サハリンフリーク、旧北区フリークの私はシボリアゲハについての薀蓄がないので、Wikipediaおよび有名な坂口浩平著「図説世界の昆虫5ユーラシア編」の記述に多く負うことを予めお断りしておく。
シボリアゲハが世界の蝶界に登場したのは1868年(明治維新の年)にブータンBhutanの標高約1500m~1800mのBuxa近郊で当時の英領インドのベンガル軍所属のリダーデイルR.Lidderdale博士による初記録である。
彼は1872年にも2頭を同じ場所から追加し、そのうちの1♂がW.S.Atkinsonの許に送られ、彼はその標本を模式としてArmandia ledderdaliiというリダーデイルに献名した新種のアゲハチョウとして記載した。
原記載(Atkinson, 1873)で図示されたシボリアゲハ♂のイラスト
その後1886年から1890年にかけてH.J.Elwesはこの蝶を得るため3回にわたって現地人の採集隊をBuxaに送ったが、最初の採集隊はBhotiasつまりブータンの山賊の略奪にあい、2回目は熱病に侵されて隊員の1人が死ぬという事態となり、3回目は隊員が虎に襲われて逃げ帰るという散々な経過でいずれも失敗に終わった。
後日ニヴェットA.V.Knyvettoという現地警察の捜査官がこの蝶を採集してElwesに送り、ようやく彼は目的を達成したとThe Fauna of British India, Including Ceylon and BurmaにタルボーG.Talbot (1939)が実話として記している。
前記のElwes(1891)は、「この蝶は樹上を飛翔するが、時に地上にも降りる。後翅の深紅色の斑紋は思いの外目立たず、一度見失うと再度発見するのは難しい」と記しているが、私の昨年の経験では、肛角部の紅色紋がよく目立ち、黒い蝶というよりは赤い妖精が優雅に舞い飛ぶ印象を受けた。より紅色紋が発達し、飛翔も緩やかな♀が多い時期であったからかもしれない。
シボリアゲハBhutanitis lidderdalii は原記載地のブータンからインド北西部(Assam, Sikkim, Manipur and Nagaland)、ミャンマー北部、タイ北部、ベトナム北部、そして中国南西部の雲南と四川の一部に分布しており、成虫は概ね8月後半から10月前半にかけて飛翔する。登攀性のウマノスズクサの一種を食草としており、昨年のミャンマーでも雌雄ともこの食草がまとわりついて繁茂するカシなどの喬木の樹上を旋回する姿が多く見られた。
これまで以下の4つの亜種が記載されている。(地名はtype locality)
B. lidderdalii lidderdalii Atkinson 1873 - (nominate) Buxa, Bhutan
B. lidderdalii spinosa Stichel, 1907 - Sichuan, China
B. lidderdalii ocellatomaculata Igarashi, 1979 - Chiang Mai, northern Thailand
B. lidderdalii nobucoae Morita, 1997 - north Kachin, Myanmar
今回私が出向いたミャンマー・チン州北部の個体群(fig.176)は、アッサムやナガ高地の続きで原名亜種(fig.177上)に該当する個体群が棲息するとされる。
原名亜種(fig.176)
(fig.177)
これらのうち、タイの亜種ssp.ocellatomaculata Igarashi, 1979 (fig.178)は棲息地Mt.Chendao周辺の過開発と乱獲などにより30年以上前に絶滅したとされる。
また、ミャンマー東北部のssp.nobucoae Morita, 1997(fig.177下) は四川から記載されたssp.spinosa Stichel, 1907 のsynonymとして取り扱われることが多い。
因みにシボリアゲハ属Bhutanitisには上記のシボリアゲハの他に以下の3種が知られる。
B. ludlowi Gabriel, 1942 ブータンシボリアゲハ
B. thaidina Branchard, 1871 シナシボリアゲハ
B. mansfieldi Riley, 1933 ウンナンシボリアゲハ
ブータンシボリアゲハは、1933-35年にブータン東部のTranshiyangsi渓谷の標高2,100-2,400mの地域から3♂2♀の模式標本が得られてから80年近く再発見されず謎に包まれていたが、近年再発見された。
さらにブータンに隣接するインド北部からも棲息地が見つかり、日本に標本がもたらされている(fig.179)。
B. ludlowi Gabriel, 1942 ブータンシボリアゲハ(fig.179)
この蝶とシボリアゲハは極めて近縁な種で、場所・時期ともに完全に混生するが、産卵習性(ブータンシボリアゲハは、あたかも蛾の産卵のように多数卵をこんもりと塊状に産卵する。)などの生態も成虫の概観も両種の間には明確な区別点が指摘されている。
B. thaidina Branchard, 1871 シナシボリアゲハ(fig.180)とウンナンシボリアゲハ(fig.181)はいずれも中国南西部特産で、外部形態も前2種とは大きく異なっており、のみならず発生期が4月〜7月と他の2種とは大きく異なる。
B. thaidina Branchard, 1871 シナシボリアゲハ(fig.180)
B. mansfieldi Riley, 1933 ウンナンシボリアゲハ(fig.181)
私は首尾よく昨年のツアーで「憧れの蝶」であったシボリアゲハ探訪の目的を達することができたので、残された時間と自分の興味の方向性などの要因を考えると、また再びこの蝶に会いにいく機会を持つことはないと思う。
しかし、あの霧に煙るミャンマーの原生林の上から、真紅の紋を誇示するように優雅に私の眼の前に舞い出てきた姿を見たときの感激はいつまでも決して私の脳裏から離れないであろう。
朝日純一(2017.02.17)
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ミャンマー・チン州シボリアゲハ紀行 その15 (最終回)
朝日純一
ティネンギン村→カレー→ヤンゴン
さらばティネンギン、さらばカレー、さらばミャンマー!
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2016-10-4 すっかり舌がなじんだゲストハウスでの朝食のこれが最後。フィナーレは一番人気のおかゆでした!
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2016- 10-4 同上。今見ても美味しそう!
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2016-10-4
ゲストハウスのオーナーと御礼の握手を交わす竹中さん(左手は我々に心づくしの3度の食事を賄ってくれた女性たち)
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2016- 10-4 ティネンギン村の幼児2人(昔の日本の田舎の子どものような素朴さがよい)
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2016-10-4 ティネンギン村からカレーに下りる山道を望む。
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2016- 10-4 163の道路に下りて休憩タイムを取り、ティネンギン村を振り返る。
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2016 10-4 そこから見上げたティネンギン村の遠望。
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2016 10-4 同上。さらばティネンギン村!
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2016 10-4 カレーの街に帰着。大学があるので若者の姿が多い。
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2016 10-4 カレーでの昼食に出た魚料理(毎度申し訳ないが、とっても美味でござんした!)
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2016 10-4 ヤンゴンに向けて帰路飛び立つ(カレーミョ空港)
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2016 10-4 さらばカレー!
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2016 10-4 ヤンゴンでの最後の晩餐のメインは巨大シャコの唐揚げ!(モチ美味!)
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2016 10-4 そのレストランの美形のウエイトレスの1人(タナカがとってもよく似合う!)
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2016 10-5 ミャンマー最後の日はヤンゴン市内の植物園で許可を得て採集。
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2016 10-5 ミャンマー最後の採集品、ルリモンジャノメの♀。
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2016 10-5 世界遺産シューデゴン・パゴダで全員で記念撮影
(おわり)
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ミャンマー・チン州シボリアゲハ紀行 その14
朝日純一
139
2016-10-2 サザナミワモンチョウ♀の表面。
2016-10-2 サザナミワモンチョウ♂の裏面。
2016-10-2 サザナミワモンチョウ♀裏面。
2016-10-2 道路沿いを採集していたらミャンマーの若者ライダーカップルに声をかけられ少し会話した。。
「ミンガラーバ(こんにちは)!」「どこから来られました?」「日本からです」「ミャンマーにようこそ!ところで何を採っているのですか?」
「蝶ですよ。」「薬か何かにするのですか?」
「いや、採集した蝶は標本にしてコレクションするのです」「へ~、日本人は面白い!」ってのが英語(彼らは堪能でした!)で交わした会話(^^)
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2016-10-2 ティネンギン村上部の道路沿いは雨がやむと蝶が極めて多かった。
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2016-10-2 道路脇に多産していたホソチョウ。
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2016-10-2 時折道路を横切るオオベニモンアゲハ。この日最後の採集品。
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2016-10-2 タトウに収められたこの日の採集品。タトウを用意すると嵩張らず、傷めずに持ち帰ることが容易。
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2016-10-2 同上(サザナミワモン♀の巨大さが判る)
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2016-10-2 10月2日の日の昼食はティネンギン村でスープ付で食べた(美味しい!)
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2016-10-2 この日の夕食のビールのおつまみ。川エビの唐揚げなどいずれも絶品の味!
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2016-10-2 夕食に出た特産野菜に炒めもの(青梗菜のような食感で美味^^)
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2016-10-3 いつものゲストハウスからのご来光。いよいよケネディーピークへのピストンも今日が最後。
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2016-10-3 この日の朝食は焼き立てのパンケーキで美味しかった。
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2016-10-3 ここでの最後の採集というので出陣式のフォトタイム。
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2016-10-3 道路工事をする若者たち(女性も一緒に力仕事をしているところが興味深く、かつ日本の3Kのような暗さがない)
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2016-10-3 井戸端会議をする女性たち。我々の異様ないでたちも見慣れたようだ。
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2016-10-3 上部から見下ろしたティネンギン村。
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2016-10-3 さらばケネディーピーク。我々を見送るように最後は晴れ渡った。
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2016-10-3 同上。
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2016-10-3 最後の晩餐(何度食べても飽きが来ない我々好みの味でした!)
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2016-10-3 晩餐を運んでくれるミコちゃん(終始この笑顔でみんな癒されました^^)
(つづく)
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ミャンマー・チン州シボリアゲハ紀行 その13
朝日純一
10月1日~4日(ハイライト):ティネンギン村~ケネディー・ピーク+ティネンギン村泊第4~6夜 ティネンギン村→カレー→ヤンゴン
この間はほぼ前3日間の繰り返しなのでマンネリ回避のため各日の印象的なシーンのみを端折ってUPします。
129 10/2
10/2の朝食。この日はフォーのようなヌードル。おかゆの次に人気の美味メニュー(^.^)
130 10/2
食堂の壁に貼られたスーチー女史関連の写真(彼女はこんな山中での絶大な人気)
131 10/2
雨季のミャンマーにはこうした足固めが必須(ただし、この時はヤマヒルは予想に反して少なかった)
132 10/2
私とO氏、T氏はミコちゃんと共に途中下車して、ケネディーピークとは別の場所を探索に。(T氏撮影)
133 10/2
ミコちゃんとT氏は下車地点近くのピークにオオクジャクアゲハを狙いに。(T氏撮影)
134 10/2
喬木の上に陣取ってオオクジャクアゲハを待つ驚異のミコちゃん!(T氏撮影)
135 10/2
道路をティネンギン村に向かって降りていた我々は今回初めての本格的な雨に見舞われた(ネットをゴミ袋で覆って採集に備える)
136 10/2
雨が止んだらすぐに今回採ってみたいと思っていたサザナミワモンの♂が飛び出してGET!
137 10/2
同上の表面。
138 10/2
同上の♀。巨大!
139 10/2
同上の表面。
(つづく)
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