「僕を育ててくれたテンダー・バー」というのが日本の原題だそうだ。小説家の自叙伝物である。監督がジョージ・クルーニ、主演はベン・アフレック、公開2021年。原作はJ・R・モーリンガー『The Tender Bar』だ。
コロナやウクライナと暗く鬱陶しい近頃にあって、スッキリとした自伝的な成功物語を期待したが、この映画は作家としての出発で物語が終わってしまった。
劇中の「上層の中流下」と云った表現が面白かった。本人が努力して良い大学(エール大学)に行っても、決して上層にはなれず、中流の下が精々であるかも。その中流下の階層の女性の両親から主人公の青年は品定めを受けて落第となったのか、結局遊ばれて捨てられる。
見方を変えれば、アメリカも、貧乏な若者が努力して上層に這い上がったとしても、せいぜい中流の下と相場が決まっているような。つまりはこの圀の灰汁が浮き出た既得権層が依然と上層に居座る現状を、そのままアメリカ的にも置き替えられると感じた。
つまりはアメリカもこの圀も真の上層階級の姿は見れない。上層らしい中流の下の階層はよく目にすることであるが、そこですら並大抵の努力では行き着くことができない。ほとんど違和感を感じないで映画を見ていたが、この圀もアメリカ占領後70年余も経てば、自ずから51番目の州のように似て来たのではないだろうか。
せめて9回も振られた女性が何故主人公を振ったか、その真の、又は嘘でも良いから、その理由なり結末を描いて物語の終わりとして欲しいものだ。その物足りなさが残った。