「もしもし、〇〇さんでしょうか、このたびはおめでとうございます・・・」
健康的な爽やかな女性の声で、さも100年の知己のような親しさで話しかけてくる。
「〇〇さん、素晴らしいエッセイ集を出版なさいましたね。随分とご評判のようです、図書館でも多く読まれているようですね。ご自身の体験が盛り込まれているのですね・・・」
まるで自分が手にとって読んだ感想を聞かされているような錯覚を起こす。
「素晴らしい」という言葉が何度も出てくる。段々マユにツバを付けたくなる。
天にも昇る心地で褒めそやされる。これまでのエッセイ執筆で、これほどまでに褒められたことのないような、言葉巧みな褒め上手、それが嫌味に聞こえないから不思議。
そりゃそうだろう、褒められているのだから。そんなに腹を立てることでもない。
私のフルネームも、ペンネームも先刻ご承知。「随分買って頂かれたのでしょうね、もっともっと多く、日本全国の方に読んで頂かれるといいですね・・・」ときた。
いくらお目出たい男でも、なんか胡散臭いな~と冷静さを取り戻す。
実力以上に褒められても何の嬉しさも感動もなくなってくる。それほど評価されるものでないことは、自費出版した己が一番よく知っている。身の程もわきまえている、つもり。
「そのような立派なエッセイ集、私どもで是非〇〇新聞に広告として掲載し、全国的に宣伝したいと思います。よろしいでしょうか」と丁重なお誘い。
ホーそんなおいしい話が世の中にはあるのか・・・などと思うほど甘ちゃんでもない。
「△△万円出して頂ければこれこれしかじかの大きさで、目に付くように広告掲載します」やっと正体も尻尾も見えて来た。ン十万円の広告料出した日にゃ、こっちは首が回らなくなる。丁重にお断りをし、納得してもらって一件落着。
世の中には色んな商売があるものだし、色んな妖怪がいるものだ。
連日の猛暑・酷暑に辟易する毎日の中で、脇の下から冷たい汗が流れる涼しさをおぼえた。下手な怪談話よりよっぽど怖い、ウソのようなホントのお話。
暑さと怪談話にはご用心、無事に元気な夏を過ごしましょう。